20110324 - silence (mono)
経験をまねて記憶を刻む。
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あるいは少年や彼女が何年もかけて理解できなかったことが数行にまとめて書かれている。何もかもが省略されていて、省略をまぬがれたものも省略されたかたちで提示される。彼女の襟元でいつか溶けた細かな風の破片はそのままその場所で一冬を越して、春へと旅立っていた。冬だからと言って風が衰弱して死ぬとは彼女には思えなかったが、それはきっと気分だけのものだろう。だけ、と、いいつつ、どれだけその取り扱いに手を焼いているのか、と憤慨しているのもきっと気分だけのものだろう。と、彼女はすこし憤慨しながら、その怒りの矛先を出鱈目に少年に向けてみようかとも考えるが、八つ当たりは控えることにした。彼女は思う。控えられた八つ当たりがもうとっくのとうに少年のなかで未然の記憶として処理されていたとしたなら、少年はわたしのことを完全に理解していると言えるようになるのだろうか、それとも少年が行き着くのは完全な誤解か。わたしはそれをどのように判定すべきか。どこかの段階において、わたしは正解を知っているのだろうか。
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彼女は自分の気分の全てを「彼女」に委託できないかと考えた。自分は単なる眼差しとして残る。社会的に作用し、生存を保つ。もちろんそのような類の考えは、「彼女」を経由して取り扱われるので、彼女にとっては、我が事、という実感も事実もなかった。人称の小細工が、見かけ倒しの大仕掛けを演じているだけのことで、実際に何が起こっているというわけでもない。彼女が実際にそのことについて考えているというわけでもない、ということに、彼女自身のなかではそうなっているが、それを申し開きしているのも、それを了解しているのも彼女一人だ。それ以外に実際に起こっていることもあるが、ここには記述されない。もう、その話はしたよね、と彼女が問いかける前に、少年がうなずいている。
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ほぼリアルタイムで彼女の経験を真似て「彼女」は伸びをする。それとも経験よりは伸びの方が早かったから、ほぼわたしの伸びに間に合うかたちで「彼女」は自分のその経験を通過したのだろうかと、「彼女」の振りをした彼女は考える。「彼女」が「彼女」としてそう考えていることに「彼女」が気付いているのかどうかは分からなかった。彼女は考えた。物語の不変量として「彼女」を生み出し、「彼女」をこの物語のなかでわたしと同定したことは、「彼女」にとってのひとつの乱暴だとわたしは思うけど、結局は「彼女」に同じだけの乱暴をしているのはわたしも同じだ、わたしが消え去ることになっても、「彼女」を救うべきではないだろうか、いや、わたしが消え去っても、また別の物語で不変量として観測された「彼女」が、その物語に出てくるわたしみたいな狡猾な生き物の餌食にされるだけだろう、わたしが「彼女」のためにこの物語のなかでできることは何か。彼女は「彼女」とともに少年を見やった。