20110325 - silence (stereo)
形のない人形。
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彼女がいう。目を閉じて。いや、開いていて。リラックスして。でも気を抜かないで。わたしの声が聞こえないふりをしていて。いや、わたしの声が聞こえる振りをしていて。わたしが何かの話しをしている振りをしていて。それともあなたが勝手に何かを聞き取っている振りをしていて。わたしが言っているこの言葉の内容が伝わっている振りをしていて。もし、わたしの声が聞こえるんだったら、わたしの声なんて聞こえないって振りをしていて。形のない人形みたいな、そんななりをいつもしていて。
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彼女は言う。安心して。きっとわたしもあなたと同じ事を忘れている。わたしがいたところで、それを思い出すことはきっとないだろうけど。もしその記憶が回復したとしたら、それはまったくの偶然。と信じることにわたしは決めている。と同時に、そのことを無意味だと見なすのではないということも知っている。実際に獲得もされなかったし、忘却へと消え去ってもいない記憶を回復するという言葉の意味はちょっと分からないけど。まだ覚えてもいないことを思いだそうとして、感傷すら先取りできる。
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彼女は言う。わたしは自分が取らなかった行動に対して反論しているのであり、わたしは自分が言わないであろうことを論破しようとしている。自分が言わないであろうことを論破するためにはずっと話し続ける必要がある。わたしの沈黙に対するこの逆説的な拘束がわたしを描写を発生させる力として確定している。
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彼女は言う。それともあなたはわたしを、まだ出会ってもいないけどすでに忘れてしまったような存在として見なしている。それで瞬間ごとにわたしがそこにあることに気付く。幾多の不思議の縁と因果と成り行きと、逆編集なんていう架空の論理を超えて。わたしは実際の旅路を背負って、人生の片道切符を偽造しているよ。もしくはそんな言い回しばかり考えている人のことを考えていたりする。暇な時は。それ以外の時はあなたが代わりにその人のことを考えてくれているのだと思っているけど、違うんだったら別にいい。
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彼女は言う。彼女は言う。この物語のなかにもう一人彼女は登場しないから、結局それはわたしでなければならないんだろうけど、また別の彼女がいると思って喋ってみる。こんな時に何を喋ればいいのか率直に言って分からないし、とんだ茶番だという見方も出来る。だから一人称を取り除いた言語を造ったら面白いのではないかなとわたしは思う。「わたしはバームクーヘンを三つに割った」は「バームクーヘンが三つに割れた」みたいに結果で会話する。それでバームクーヘンがひとりでに三つに割れるはずはないから、という推論的過程を内包した言語で、密約をプログラムする。「あなたとわたしが出会う」は、「少年と少女が出会う」になるんでしょうね。わたしは、「彼女」、ということになる。って。