20110326 - silence (dolby surround)
いちいち目眩を感じながら。
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「彼女」は言う。正確に言えば「彼女」のふりをした彼女が言う。あるいは彼女のふりをした「彼女」が言っているのかも知れない。他の物語の中では「彼女」が語り得ぬことを語ろうとして。つまり彼女がそこにあることにより、初めて存在可能になった「彼女」の部分が少年に話しかけていて、少年は少したじろいでいる。ように彼女には見えた。
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「彼女」は言う。あたしのことをいろんな物語のなかで見逃してきたとあなたは思っているんでしょ。もしくはすれ違ってからあなたが振り返るすべての後ろ姿にあたしの痕跡が見つかるかも、と思って、あなたはずっと、じっと、旅を続けてきたんでしょ。その旅はこれからもまだ続くし、彼女は祈りたくもない幸運をあなたに祈っていて、あたしは他の物語を探して、その中でなら彼女ではない姿であなたを救えるかもしれないと思っているけど、それがあなたの望みかどうかを聞くのをまず忘れてたね。
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「彼女」は言う。べつの物語のなかであたしが彼女の姿を取らないであろうことは、ほぼ確実。わたしは言ってはいけない秘密の言葉みたいな形で表現されているかも知れないし、幸運のお守りみたいな姿形をしているかもしれない。血のついたナイフ、カギ括弧のついていない独白、別の物語のなかであなたが訪れる部屋を誰かとシェアしている狂人の眼差しにあたしは宿っているかもしれないし、もしかしたら別の物語のなかではあなたがあたしだと言うこともあるかも知れない。
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「彼女」は言う。列島や、半島や、大陸や、また別の大陸。バスや飛行機や列車を乗り継いで、ターミナルや、深夜の食堂や、どこかの湿った南風のなかでいちいち目眩を感じて、そして目眩として揺れた分を補正して視角を整えて、その意味ではその分の現実を自分の感覚に丸投げしながら、あなたはあたしの後ろ姿だけを追いかけてここまで旅を続けてきたわけでしょ。もしいま彼女としてあなたに差し向かって話しているのが、単純に「彼女」であるあたしの後ろ姿としてここにあるだけだとしたらあなたはどうするの。あなたと差し向かいで話し合っている誰かの後ろ姿、なんていかにもで、あたしにはつまらない話しのようにしか思えないけど。
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「彼女」は言う。回想のなかの後ろ姿、あたしがこの物語で背負っている役割はそれだけのものかも知れない。あなたが新宿で彼女の後ろ姿をあたしの後ろ姿と勘違いしただけの話しで、本当にあたしと彼女は関係がないのかも知れない。だから自由になるのもならないのも、あたしや彼女の勝手という話しになり、あなたのことは単に放っておけば良いということになる。見たところそれでも問題はなさそうに見える。あなたがあたしではなく彼女を欲しがることを、ここになり、何故かあたしが望み始めているという簡単な予報を除けば。
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「彼女」は言う。だからきっと彼女は特別な存在で、あたしの振りをしている彼女がそんなことを話しているから当然彼女自身は赤面しているわけだけど、それはあたしがいちいち解説するまでもないでしょう。