20110404 - silence (audible)
茶菓子。
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時に窓から涼しい風が吹き込む以外は、室内の温度は安定しており、少年は自分が感じているものが室温なのか体温なのか分からなかった。
心地の良い日だった。何にも理由や原因はないようで、だからどれが結果かとか、判然としなかった。因果の網をたぐって、そこに捕らえられた一匹の蜘蛛が見つかり、その蜘蛛は因果からは自由で、それ自身を律している何らかの規則からは自由ではなかった。理由や動機を離れようとして、そして、感慨や考察を離れようとして、自己を回避したと思ったところで、回避されたほうの自分が、通り過ぎようとしているほうの自分の何気なく足を引っかけようとしている、その足を少年は蹴り返した。
その時に無意識的に動いた足が、カモミールティーの残ったマグカップを倒したのだった。
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こんなに気持ちの良い日は、どこかに出かけるべきではないかと彼女は思う。
四分咲きの桜並木のした小一時間歩いて、公園まで少年を案内することを彼女は検討した。その曜日の、昼下がりのその時間だったら、彼女の気に入っているドーナッツ屋にまだ品物が残っているはずだった。ひょっとしたら何かを察した少年が彼女にドーナッツをひとつくらいおごってくれるかもしれなかった。さっきからお茶ばかり飲んでいるから、口が寂しいというのもある。
だが、たぶん、人の判断や反応と言ったものを先取りし、先回りしながらとかく捉えどころのなくしていく少年の親切さは、きっとそのような形では駆動しないのだろう、と彼女は分かっていた。彼女は「自分が間違えていたらいいな」と思ったが、文字通りそう思ったのではなく、彼女の抱いている小さな期待を翻訳したらそのような文言になるというだけのはなしだった。実際に彼女が抱いていたイメージはもっと別のものだった。
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少し腹が減ったな、と少年は思った。どこかで何かおやつでも買ってくるべきだったが、自分が彼女の部屋を訪れる前に何をしていたのか、記憶は曖昧で、その曖昧さのなかから煎餅の何枚かでも融通してもらえないものかと少年は考えた。
少年と彼女は黙り込んで、それぞれの体から発せられている静けさを味わっていた。相手の静けさを味わうことが、自身の静けさを表現することにつながった。もちろん、それが少年か彼女の考え過ぎの成果でなければ。
彼女に言えばバームクーヘンのひとかけらでも出てくるかも知れない、それとも、いつから棚の奥で眠っていたのか分からない案外しっかりした外装のクラッカーだとか、何か乾燥したもの、簡単なお茶菓子の一種類か二種類くらいはあっても不思議ではないと少年はぼんやりと考えた。これまで少年が飲んだことのない味の茶が出されたくらいだから。でももしそうならば、自分は彼女がまだ食べたことのない茶菓子のひとつでも献上すべきではないだろうか。チーズケーキを、月の欠片だと銘打って、おもむろに渡すとか。少年は念のために自分の持ち物を調べてみたが、財布と携帯型音楽プレイヤーとイヤホン以外は何も持っていないことが再度確認されただけだった。