20110408 - silence (fictional)
腰。
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少年が手を動かそうとすると、「彼女」の手がそれを許さなかった。あなたがそれ以上崩れるのをあたしは許さないから、と「彼女」が無言で少年に告げた。それはどういう意味だと少年は無言で問うてから、それはどういう意味なのか考え始めた。その意味を知ってはいたかもしれないが、それが「彼女」の言葉と結びつくことはなかった。
「彼女」は少年をそれ以上の崩壊から守ろうとしていた。手に手を重ねるだけで。それで少年は人の形を保ち続けた。彼女がそうしていた。少年が決して懐かしさに負けることがないように。「彼女」が彼女にそうすることを託したのだと、「彼女」の振りをし続けている彼女がそう認識した。それは彼女が想定している少年の妄想の度合いに応じたもので、必ずしも現実に即したものだとは限らなかった。
彼女は少年が手を動かさぬように押さえていた。動きを押さえていたのか、手を押さえていたのか。それとももっと別のものを押さえていたのか。ただ手で手を押さえているだけのはずなのに、正確さを求めて拡散する、ただそれだけのことなのにと彼女は思う。
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少年はなぜ自分が手を動かそうとしたのか自問してみる。特に深い理由などなく、少ししんどくなったからというのが最も真相に近いところだろうが、「彼女」の首筋や、肩に触れようとしていたのだと言い訳もできる。それともそれはやはり「彼女」自身に関係あるのだろうか、と少年は考える。それはつまり、少年の視界のなかで手を動かそうとしていた誰かの思惑は何か、と翻訳される。
それでは「彼女」が自分をそれ以上の崩壊から守ろうとするその意図は何か。それは「彼女」が「彼女」として救われる可能性の一つを保全しようとするだけの作業ではないか、と少年は考える。「彼女」の世界で可能性へと転じようとしている不可能性のひとつのかけら。少年はそれが結局は自分の世界観であることを自覚していた。実際には少年の世界観はもっと活き活きとしていた。暗くてほとんど何も見えないことを除けば、そこではすべてのことが起こっていた。
少年はもう手を動かそうとはしてなかったのに、「彼女」はまだ掌に力を込めていた。透き通る、静かな強さだった。だから少年は「彼女」が「彼女」自身を救うための道具として自分を救おうとしているという考えをそれについて考える前に却下した。少年が「彼女」の頬に手を軽く押しつけると、「彼女」の手から力が抜けた。
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こんなことをするのは昼下がりに限る、と手の力を抜いた彼女は思う。夜だったらきっと真面目になり過ぎてしまう。この季節のこの時間帯が一番良い、と彼女は思う。
それから彼女はふと手に力を入れ直すと、少年の右腕を自分の腰まで運んだ。
少年の掌が「彼女」の腰のくびれを包んだ。背筋のカーブが、動かず、柔らかで、丈夫そうだった。少年は彼女にもう少し近寄らなければならなかった。あぐらをかいた膝と膝が触れては離れた。