nobody hurts

November 3, 2011

20111103 - a song - 17

 午前三時半の冬の機械が薄く作動している。街灯に照らされて透明なそれが分かる。空気と色彩とほんのちょっとの繊細な音によって編まれる冬の機械のその骨組み。ただ風がそこを渡れるように組み立てられる街の仕組み。大気と同じだけの重さで絶対なのに一カ所一カ所は危うい偶然で成り立っている。あるいはあたしは物事をそのような単位でしか切り取れない。
 街灯の光に街路樹の葉の一枚一枚が照らされているのが見えてそれは表か裏かで違う色を返し、その少し下では信号のネオンがたまに色を変え、灰色の車道の黒い艶がそのバランスを支えている。そのような視線の動きが冬の機械を編む。人々の視線によって完成する季節限定の機械。透明なそれだから、特に合意が得られることもなく、ひとびとは北風を探し、中空や揺れる枝を見る。あたしの睫毛に光りが絡まるみたいに、冬の透明の機械に北風の細い糸が絡まっていく。空気が小さく渦を巻いている。それが幾つもある。北風を大気から呼び込んでその場の状況に応じて透明な光りの糸を紡ぐ冬の機械。質感の機械。
 一瞬一瞬では止まっていて、時間を通して見れば動いている。それは嘘で、それが静止しているように見える一瞬をあたしは捉えられずにいる。これからもそれが出来るようになるとは思えない。それはただ呼吸のサイクル毎に注意時間を定めるのと同じことで、呼気から数えるか吸気から数えるかできっと少しずつ時間の印象は異なっていく。そのような瞬間を重ねていく。
 都会の一瞬一瞬をそのように足の裏で捉えていく。夜気に涼む。季節が花を添える。彩りが時刻を添える。そうして身の回りの品々に呼吸が戻っていく。街灯に馴れる夜の景色みたいに。
 ビールを何本か飲んで既に酔っ払う。自動販売機を見つける毎に缶珈琲を買うのと同じペースで、コンビニでビールを買っている。空き缶はコンビニ前に置かれたゴミ箱に分別して捨てる。あるいは途中で通り過ぎた自動販売機の隣に置かれたプラスチックの箱に放る。始発に乗る時くらいは酔っ払っていたいという人情が働いたか、結局は飲んでいる。夜を過ぎた格好で朝を通り過ぎるために。季節と同じように儀礼的に、夜の習性のなかあたしは腕時計を持たずに。
 酔うと睫毛の幻影は弱まる。この街の歩道に挟まれた運河として車道を沈めていた水は排水孔からさらに沈み、この都会の地下を水浸しにする。それすらも睫毛の働きで、つまりはあたしは自分自身をさらに巧妙に騙しているだけだ。あたしの足の裏、地面を隔てた場所で盛大に水しぶきが上がっている。あたしはその分の処理を余分に行っている。呼吸の隙間をふと見つめるのと同じように、ひとつのペースのなかに含まれるペースを穏やかに見つめる。空は雲一つない空、月の全部が見えていてその半分だけが光っている、それみたいに。

category

archive