20111104 - a song - 18
北風と夜明け前の街灯の明かりと視線により編まれた冬の機械の、小さな河川に掛かる橋の建物の途切れた風景が夜をその長い腕で寝かしつけている。町並みは路地の交わりで漉した夜気を掬い取り、街灯の明かりだけがその有り様を覚えていて、冬の機械がそれを再現している。冬の機械はただ北風を通すだけの機構で、北風は南に向かう。
そんなに都合よく世界が終わっているはずもなく、街灯の明かりだけではなくこのあたしもその有り様をよく覚えていて、午前四時過ぎで、足と目の裏が痛む。冬の機械が霧散する。誰にも観測されていない姿の都会が見たいと願いながら、それは誰かと誰かの思い出話の合わさる場所にしか存在しないと考えつく。樫に話そうかと思ったが、言葉を省いた。だからそれはあたしが辛うじて見た都会の断面のひとつでしかない。
何かについて話すために何かを省略したり増幅しようと試みた結果ある程度均された感受のなかにあたしはいて、言葉はその景色に凹凸を与える。時の景色にそぐう破片を選んで地を固め天が降るのを待つ。あたしと樫は公営住宅の最寄りの駅までの切符を買う。
ホームでもまだ飲んでいる。見知りのバーを渡り歩いたいつかの晩の夜歩きの時よりも幾らか酔っ払っていた。
「今日何日」
とどちらかが聞いて前夜と二三日ずれた日付をどちらかが答える。部屋を出る時に漂っていた珈琲の匂いを思い出す。屋上に出る前に珈琲を飲んでしまおう。ウィスキーを垂らしてもいいし、また豆を挽いてもいい。その時間のために出来ることを選ぶ。そしてその時間が何のためになっているかなんて忘れてしまうにかぎる。それで省かれる手間が余計なものかどうかは分からなくとも。
何台も電車がやってきては去る。この駅に止まりもしない。大勢の乗客を乗せてただ通過していく。あるいは何台もの電車がこの駅に止まり、人の出入りがあり、再びこの駅を発車していく。睫毛を勝手に働かせて、時間の早さを無視して目の前で進行する昼夜の風景を目の中で過ごす。
始発がプラットホームに滑り込む。途中で寄り道をしながら一晩かけて歩いた距離を鉄道は数十分で消化する。たまに何かの儀式みたく朝の電車に乗り込む必要がある。それまでの過程がある。足の裏が痛む。
電車を乗り換えたあと、シートの端の手すりにもたれかかりながら屋上から見える景色のことをあたしは半分眠りながら考えている。ちゃんと目を覚ますことが出来ればその光景の中に正しく辿り着くことが出来ると、半分眠りながら考えていたことを覚えている。
駅から公営住宅に歩くあいだには空は白み始めている。だがまだ夜は明けていない。あたしと樫は少し早足で歩いた。足下が多少ふらつき、様々な方向へと早足で歩くことになった。それでもちゃんと十五分のラップライムで目的地には辿り着いた。その十五分に焦点を合わせて、まだ動けることを確認した。