nobody hurts

October 6, 2010

20101006 (a)

雨に宿る。



芯で描いている線と、線を形作る筋肉や血管や目に見えない信号を伝える目にも見えないし決して存在もしない様々な線と、体の中を降る雨と、そこにある体の分を空から降下する経験をしている雨と、もしくはそこにない雨の分を暮らしている体。雨を避けるのではなく雨に宿る。


昼間に集まった夜たちと、不健康で無軌道な昼の夜と、眠り込んだまま夢遊病患者のようにふらついている昼の夜と、寝過ごしたまま待ち合わせ場所に姿を現わしもしない昼の夜と、そのまま夜になるまでその場でくだを巻く昼の夜たち。もしくは取り合えず帰って寝る昼の夜たち。


速度と音楽と、雨の砕ける音を聴いて雲の形を思い浮かべている食卓と、もしくは食卓に用いられている木材を育てた雨の総量と総体と一滴一滴の個体を弾き出している屋根裏部屋や、屋根裏部屋から降る雨を集めて育った一軒家。

October 5, 2010

20101005 (a)

媒体としての感情。



季節と画面と表紙と鞄と光学と、省略された省略と、完全な省略から逃れてここにある或る省略と、もしくは省略の様式と、展開が圧縮であるような省略と、または圧縮が展開であるような省略と、もしくは省略された圧縮を展開して生じたような省略。


媒体を媒体として用いる作法を予め知っている子供たちと、もしくはそれを学びながら実践している過程と、人格という媒体と、媒体としての感情と、徹底的に醒めたものとして保存している熱量と、その熱量を醒めたものとして保存するために必要とされる熱量から生じる熱量。


ちまたに浪漫と呼ばれる媒体としての感情と、感情を物質として取り扱うための作法と、そのようにして感情を消費され得ぬものとして確認し保存するための表現と、共有の諦めと、何かを共有しているという淡い希望を共有しているという媒体。

October 4, 2010

20101004 (a)

光景である何かをまず初めに始めた瞳。



風速と、時速と、右手と、硬貨と、銅貨と、財布と、携帯と、帽子と、秋物と、新作と、古着と、紙巻と、電車と、電線と、展示と、約束と、新宿と、書店と、階層と、連結と、流速と、雑踏と、街灯と、演奏と、外壁と、拍手と、逍遥と、帰路ではなく旅路。


呼び声の秋と、液体の空と、気体の酒と、固体の心と、鍵と鍵穴と、柑橘系の瓶と、瓶から蓋をもぎ取って瓶を囁き声で満たそうとしている舌と、舌先と、気がつけば耳から鳴っていた音と、誰もいない無人の劇場に迷い込んだ人影と、誰もいない無人の劇場を今でも彷徨っているその人影。


缶と、とある伝説の街角と、もしくはとある伝説の街角候補と、前触れと、光景である何かをまず始めに始めた瞳と、未だ光景である何かを掴み切っていない記憶と、自分と視界のあいだにある距離を押し出し続ける歩幅と、石の森と、石の森を伝い濡らす雨。

October 3, 2010

20101003 (a)

瞬間よりも狂いのない。



反復する声に重なる管楽器と、秋と雪と、春と修羅と、ある曲の終わりから始まる瞬間と、ある曲の終わりから続いている瞬間と、あの曲とあの曲の終わりから続いてきた瞬間と、まだずっと始まっていない曲の終わりからずっと続いているこの時間。


踊りの直接的な解釈と、解釈と背中合わせの背中と、自分の背中と背中合わせの背中と、瞬間に拘束された瞬間と、瞬間を解体するための瞬間よりも狂いのない何かと、その次にくるであろう瞬間よりも狂いのない何かよりも狂いのない何か。


そのようにして探し出される瞬間よりも狂いのない瞬間よりも狂いのない何かと、瞬間よりも狂いのない何かよりも狂いのない何かが抗いようもなく含んでいるような誤差と、そのわずかな誤差のなかで育つ正確さと、正確であることの例外的な規則、または事故。

October 2, 2010

20101002 (a)

ひとのかたちをしたうごき。



群衆と靴音と、目を閉じた際の音響に匿われている夜景と、一枚の硝子のような夜景と、もしくは無数の硝子のような夜景と、幾つもの光景を同時に見ている一つの視線と、ひとつひとつの光景のなかで別々の人称を持っているその視線と、ひとつの視線と複数の人称を共有している雨。


紙切れと電光掲示板と、駅前の巨大な水たまりと、駅前の巨大な水たまりに映る曇り空と、曇り空の下で駅前の巨大な水たまりにの中でだけ降っている雨と、水中の雨と、都会の雨と、雨の都会と、風雨と、風が降っている水たまりと、光景が結晶したように見える水たまり。


ひとのかたちをした動きと、獣の皮膚のその表面の様子を踊りの様式で追いかけているひとのかたちをした動きと、雨が降るさまを布団のうえで追いかけているひとの形をした緩慢な動きと、映像や消滅に逆らいながら人間の動きを街中で追いかけているひとのかたちをした動き。

October 1, 2010

20101001 (a)

ずっとそう。



装いと警備隊と重火器と秋とちりと、軍手と襟巻きと思い思いの音楽と、大騒ぎのなかで繋いでいる手と手と、手の汗と、軍手に吸収される手の汗と、汗と汗が絡まって生み出される新しい液体が滴る地面の鋪装の乾いた艶と、足下から湧き上がる不思議な力と、聞こえる範囲の叫び声。


叫び声の半径と、夜が破壊されて道端によこたわっている白日と、日々の緩慢な騒ぎの行く先と、包囲や解放と、要求や譲歩と、隊列に意味を見出すのではなく幾枝にも分岐したその始点たちと、つまりは逆算された帰り道と、逆算された帰り道から逆算している明日の方角、ずっとそう。


肌に満たされて酸素の薄くなった街路と、同じく肌に満たされて酸素が濃くなった回路と、汗で駆動する機関と、手汗で駆動する機関と、意味もなく生き延びていることの静かな感傷と、意味もなく生き延びていることのことの感傷的ではない静けさと、ふと我に返させられる空砲の響き。

September 30, 2010

20100930 (a)

一枚の窓硝子により絶えず裏返り続けている無数の部屋。



硝子の椀ですくい出した雨水と、雨水で体を流している足音と、足音の背中に光る雨の粒もしくは足音の背中で雨をしている光りに見とれている靴紐と、時間を流れていく空の青と、空の青を流れていく一枚の窓硝子と、一枚の窓硝子により絶えず裏返り続けている無数の部屋。


港町と、人声と、人の形の声と、人の形をした声を追い掛ける叫びや呟きと、体の内側のかたちの目の前と、体の外側のかたちの誰かの目の前と、目の形をしている体と、口のなかで転がしている目玉と、口の中で転がしている光りと、一滴の雨粒が落ちてくるのをじっと見上げて待つ靴紐。


端子と、接続と、通信と、声と、受話器と、耳と、鼻歌と、可聴域の物語と、曲線みたいになっている音楽と、もしくは直線を曲線のようにおいかける力を持った目と、その目を追いかけ続ける精神力を備えた目の観測者と、もしくは視界そのものである観測者と、背筋を伸ばす外の人。

September 29, 2010

20100929 (a)

足音。



写真と、写真のなかの景色と、景色から切り抜かれた写真と、映像の記憶に被さる音像の記憶と、例えば写真から聞こえてくる音と、もしくは写真が最後まで黙っていることに決めている秘密と、もしくは写真に対して黙っていることと、写真のかわりにじゃないけどと喋り始めている足音。


積み重ねられた荷物と、もしくは裸でも運んでいる荷物と、時に荷物みたいに微笑むその表情と、時に荷物みたいに頭に乗っている髪型と、荷物によって荷物のためにではなく鍛え抜かれてきた体と、その体を通して鍛えられてきた頭と、より柔軟な知恵を体に期待している頭。


より柔軟な知恵と、空気で出来た荷物鞄と、空気をまとう訓練と、空気をまとっているかのように踊る訓練と、もしくはまとわれた空気のように踊る訓練と、空気との緊張を求める呼吸と、空気との和解を先延ばしにする呼吸と、薄く濃く澄ました体内の空気を重力と協調させている足音。

September 28, 2010

20100928 (a)

常に記憶のそとにある足音。



雨水で満ちた海と、雨水の海に雪が降る日の航海と、雨水の海に雪が降っている絵葉書と、雨水の海に雪が降る絵葉書を送る習慣と、雨水の海に雪が降っている絵葉書の印刷所と、競合会社に複製される絵葉書の心象と、複製版では決して海を満たしていなかった雨水。


複製された心象のなかで生まれ育ちそれを再編集することを学ぶ靴紐と、その途中で見つかる編集された心象やその複製やその元本や、複製されたものの元本として導き出される靴紐と、複製と編集の作法を精製して作られたものさしと、そのものさしの上に並ぶこれらの文章。


ご多分に漏れず複雑に積み重ねられた平坦な戦場と、その異様な密度と、その密度こそが真の戦場であるというような平坦な戦場と、観測と実戦のあわさる場所でいつも記憶の一歩先を歩いている誰かと、そのようにして常に記憶のそとにある足音。

20100928 (c)

動かないまま流れている色合い。



映像化された視覚や、そのなかで人称の変わり続ける行為や、それを逐一記録し続ける書記や、作戦本部や、かつ現場や、かつ眼前や、かつ黙認や、かつ目前や、かつ自前や、かつ手前や、かつ後手や、長考のなかで短期記憶を駆使している眼前の踊り手や、動かないまま流れている色合い。


言葉のなかで踊っている靴紐や、音のなかで踊っている足音や、足音を踊っている足音や、いつも足音の踊っている背中に見とれている靴紐の冒険や、冒険にまつわる冒険や、夜に自分の部屋で眠っているという冒険や、どこかで読んだ冒険から逆算したものではない冒険。


冒険を逆算し続けている文字や音のなかの冒険や、常に対面する過去や過去の参照するものや、過去や現在を未来に対して参照させる文脈ではないあざとさや作意や、その必ず次の頁に掲載予定の当日の現地解散の模様や、解散が目的の集会や、しみったれた話しではないと言い張るお話。

September 27, 2010

20100927 (a)

雨を挽いていた足音の睫毛。



雨でできた海を漂っていた客船と、その看板で新聞を読んでいた靴紐と足音と、珈琲から上る湯気に導き出された視線の先の雲と、その雲によって繋がれた雨の水槽の部屋と、降ることによって形が分かれた雨と、雨水で満たされた海と、もしくは雲一つない雨水の空。


街区と、番号と、酒場と、酒場の奥の鍵盤と、誰もいない夜には雨だれが鍵盤を叩く音で満たされる店内と、店内を満たす内装の木の匂いと、その木と同じ木材でできた店主の算盤と、その木と同じ木材でできた盤と駒と、もしくは盤と駒ではないのに勝手に盤と駒であるとされたもの。


雨で割った酒を飲んでいた靴紐と足音と、二人が酔い覚ましに飲んだ雨水で淹れた珈琲と、雨を挽いていた足音の睫毛と、朝の蒸気と、水滴と、鉄材と、工業と、賃貸と、駅の売店と、二番線か五番線か八番線と、鉄道と、暗いけど絢爛な構内と、無関係そうに静かでも喧しくもない車内。

September 26, 2010

20100926 (a)

窓の外の当たり前の街道を漂っていく客船。



いつかは雨の水槽の部屋に漂着するであろう客船と、混乱のなかで避難が済んでいる船内と、もしくはその雨の部屋を格納して漂流を続けようとするかもしれないその船と、あるいはその船の外壁を通り抜けてそれを回避する雨の水槽と、窓のそとの当たり前の街を漂っていく客船。


いつかはその客船に乗っていたという記憶がある足音と、いつかはその船が出港するのを灯台から見送っていたことがある靴紐と、もしくはその客船の客室であったかも知れないその雨の水槽の部屋と、客船の乗務員がその部屋の扉を開けた時に流れ出すであろう大量の雨水。


恐らくはその雨水のせいで機関の故障に見回れた客船と、そして恐らくは単に避難し遅れただけの靴紐と足音と、ふたたび扉を閉ざしてその客船のことをすっかり忘れてしまうまで雨水のなかで生計を立てていた二人と、その部屋がいつか流れついた重なった建物に一週間か何度か降る雨。

September 25, 2010

20100925 (a)

程よい静止を見定めて張り詰めない皮膚。



服を通して皮膚に張り付く雨と、家具を通して部屋に張り付く雨の水槽と、窓から射し込む光りを通して壁紙に張り付く雑誌の切り抜きと、昨日から射し込む光りや闇がごたまぜになって目の前の記憶を通して瞬間ごとに体に張り付く歴史の最末端と、一日の毎日が一生を変えるような一日。


動かない皮膚と、できる限りゆっくりと動いている皮膚と、つまりは程よい静止を見定めて張り詰めない皮膚と、その皮膚を撫でるちらちらと揺れる光と、水槽の部屋の場面の背景音楽と、ここもまた雨に満たされていた舞台裏と、機材の電源から時折走る稲光と、現場で慌しい撮影班。


足音はそれまで自分が静止していた事を皆に伝えるかのような作法で静止を止めたのですと伝える雑誌の見出しと、その意味では足音はまだ静止しているとも言えますしそれは足音自身が自分がまだ静止していることを伝えるような作法で破られなければならない静止なのですと続く記事。

September 24, 2010

20100924 (a)

靴紐と足音。



互いが互いにとって存在しないというような伝説の二人と、異国の田舎茶屋の軒先で涼みながら雨の水槽となった部屋を考えている二人と、雨水で淹れた珈琲と、ねえ今度はその珈琲のなかで溺れている私たち二人のことを考えてるんでしょうとそこにいない靴紐に対して呟いている足音。


二人が溺れている雨の水槽の窓のそとに広がる普通の世界と、白い壁と様々な原始的な装飾と、口から泡が漏れる音に被さる屋外の物音と、記憶によれば記憶に属するもののように思われる様々の生活音と、さっきから扉を叩いている宅配業者と、水圧できっと開かないと分かっている扉。


目の前の記憶と、目の前の記憶とともにここで呼吸をしているものと、雨の水槽となった部屋に浮いている珈琲の椀を満たしている珈琲の色をした光りの影と、珈琲の色をした光りの影を口に含んで獣の四つ足で立っている足音と、大体いつも足音に見とれている靴紐を快く無視する足音。

September 23, 2010

20100923 (a)

口の中の空気と身を寄せ合って。



水のなかで生計を立てている靴紐と足音と、口の中の空気と身を寄せ合って空気だまりを探している靴紐と、窓から差し込む九月の太陽光と、その光りに色付けされた雨の水槽と、雨の屈折率のなかで余りにも遠く離れた窓と寝椅子を視線の角度で近づけようとする足音。


何度も雨みたく降りながらも空を目指す足音と、自分が降って出来た水たまりに映った空を目指す足音と、自分が降って出来た水たまりに映った空を幾度も砕く足音と、室内の一角の個人的な密度と、雨の水たまりの水槽のありふれた重力と、重力の方向と、重力のせいではない雨。


茶碗ですくった雨と、その茶碗にどこからか一滴の落ちる波紋と、建物の共用部の名残りである中庭の吹き抜けから見上げる青い空と、茶碗ですくった一滴の雨と、その一滴がそれ自身のうえに波紋を走らせる内側からの木霊と、まるでそれ自身の記憶を持つかのような建物の内装。

September 22, 2010

20100922 (a)

人生でなかろうが本当ではなかろうが。



明日から後ろを振り返っているような一日と、その一日を後から振り返っているような一日と、もしくはそのような一日を思い浮かべる数秒の時間と、ある数秒をその数秒の内側からすでに後悔しているような諦めの良さと、部屋に貯まった雨の水で靴紐の分を溺れている足音かもしくはその逆。


雨の水に満たされた室内で一滴と、一滴の部屋と、一滴の部屋と気泡と、一滴の部屋のなかで家具が傾いた加減で出来た空気だまりと、空気だまりくらいの空間しか本当は使わないのにと考える靴紐と、空気だまりから出たら溺れてしまうような生活をしていたのかしらと考える足音。


結局はいつもどの日も他の日の分も濡れているのだから人生ではなかろうが本当ではなかろうがすでに前払いが済んでいるみたいな雨の日の情緒と、別に人生だろうが本当だろうが作り物に感じる隅まで行き届いた一瞬の情緒が長持ちはしない寝椅子から窓までの距離。

September 21, 2010

20100921 (a)

腹が減ったとぼやきよく冷えた茶を飲む。



ある二重に重なった建物のなかで重なっている靴紐と足音と、同じものを見聞きしながら決して同じ一人ではありえないその二人と、二人の重なった視界と、二人の見ている決して重なってはいない対象物と、靴紐が腹が減ったとぼやいているときによく冷えた茶を飲んでいる足音。


目から視界が溢れてしまったような光景と、この世の終わりか始まりか続きと、一段ずつ上る暗い階段と、少しずつ近づいてくる声と、近づいてくる声とは対照的に遠ざかって行く物語と、地下にあるのか地上にあるのか最早判然としない階段と、寝心地の良い寝椅子で砂菓子を食べている足音。


砂で出来た菓子と、いつかは曼荼羅を描いていたその砂と、いつかは足跡の残した溝であったその曼荼羅と、いつかは寝静まった旧市街のようであったその足跡の溝と、溝を崩すようにぱらついていた雨と、雨の音と、雨の音を聴いている足音と、そこに音楽であった音楽を探している靴紐。

September 20, 2010

20100920 (a)

"I haven't got good at wasting ten years of my lives.
It does sometimes seem I have."
- Nicoli Binara



通りを透かして見上げる空と、少し遠くで跳ね返っている音と、何通りも透かして見上げている空と、一瞬の空と、だいたいの地面と、靴紐が右手で触れている壁と、足音が親指で押さえている壁の塗装の剝げかかった箇所と、伝説の二人がそれぞれ一人ずつでしか存在し得ない場面。


曇り空を猫背で支えている靴紐の黒目と、無音と出音のまだらを下顎に乗せて均衡を保つ足音と、空を映し出している灰と茶とその他の色の温度で一夏かけて冷やされた石畳と、潮騒と汽笛と、排気孔に縫い合わされた建物と、排気口からはみ出ているその建物に重なるまた別の建物。


排気口により縫い込まれた一つの建物に重なるまた別の建物と、その二つの建物の中や外で可能な全く同じ景色と、そのひとつの建物の外で可能な足音と、そのもうひとつの建物の外で可能な靴紐と、二人がどうにか互いを見つけ出すための努力をすることのできる重なった建物。


September 19, 2010

20100919 (a)

その伝聞がまた繰り返されたりするのを好む趣味。



虹を一言で言い表せる色の名前と、ある時代に生きる複数の世代をひとくくりに言い表すことのできる賢い名前と、犬と猫を一言で言い表す名前と、誰かと自分を同時に言い表したりそれによって誰かに自分と同じ何かを代表させることのできる名前などはありませんという付箋など。


付箋から目を上げて室内の眠気を探っている足音と、本に目を落として文中の静けさを測っている靴紐と、おそらくは同じ部屋における違う時間の光景と、もしくは同じ時代に於ける違う場所の光景と、もしくは同じ時代の同じ光景の同じ光景の出来事の違った可能性の中か外での出来事。


録音技術と再生の習慣が可能にしてきた共有されている光景とされる懐かしい光景と、伝聞系の文化と、その伝聞と体験がどうも妙な具合で結びつく夏や夜と、その伝聞がまた繰り返されたりするのを好む趣味と、足音か靴紐の寝椅子の枕もとで再生されている圧縮音源の熱い実況ぶり。

September 18, 2010

20100918 (a)

それを鳴らす音質のように分厚く切れがよく自覚的な音楽。



秒刻みの消滅の中で誰かと誰かが出会い直す街角や角部屋と、そこで鳴っているそれを鳴らす音質のように分厚く切れがよく自覚的な音楽と、消滅の復習に対して支払ってきたここ数十年の過剰と、もしそれが代替不可能な何かなのならばそれを代替可能に変えるというお仕事。


音質の冒険と、たとえば靴紐のそれと、常に靴紐の冒険に追従する足音の冒険と、常にかくのごときに語られる物語と、ある種の物語とともに生み出されたようにも見える靴紐と足音が決して互いを知らぬような物語を共にいることにより編んでいるというような疲れる事柄。


いつも靴紐の退出をうながす足音と、いつも足音の退出をうながす靴紐と、いつも靴紐の退出を予期している足音と、いつも足音の退出を予期している靴紐と、二人が二人の記憶のために志す歯車のような機関と、記憶されていない二人を駆動させている記憶されている二人。

September 17, 2010

20100917 (a)

「消滅を待たないで」



いつも最終章の前章で落ち合う消滅を待たないでという声と、言い換えれば自分の消滅をその目で確かめてという声と、つまりは消滅する前に何がそこにあったのかを今確かめてという声と、録画中と示されているのかそれとも録画中止と表示されているのか定かではない枠内。


鼻で笑っている読者と、例えばあの隊商の娘と、あの娘がこれを読んでいる任意の昼の酒場の任意の空気感のなかに並ぶ任意の夜の任意の冷たさを余りにも白々しく長いあいだ吸い続けた座席と、純粋に情動と処理能力のための常套句と、それと同じ目的で書き連ねられている断章。


また月明かりの届かぬ酒場の奥の夜と、寝過ごしたまま花束のような夜の中心でふと目を覚ました娘と、娘とは全く無関係の場所で咲いているその花を思い描いているのか思い出そうとしているのか分からなくなったときに吹き込んだ風と、窓の外で地上の夏が消滅の試算を行っている枠内。

September 16, 2010

20100916 (a)

この曲の名前を知っている誰か。



この曲の名前を知っている誰かと、この曲の名前を知っている誰かの名前と、この曲の別名を知っている誰かと、この曲の別名を知っている誰かの別名と、この曲の別名であるかのような誰かと、ということはこの曲であるかのような時もある誰か。


この曲のなかに住んでいる誰かと、それと同時にこの曲のなかには住んでいるはずのない誰かと、この曲のある種の作曲法であるかのような誰かと、この曲に偶然を期待し続けている誰かと、この曲に何かの必然を次々と探す誰かと、この曲の幻聴であるかのような誰か。


この曲を歌うのが上手そうな誰かと、この曲を聴くのが上手そうな誰かと、この曲をかけるのが上手そうな誰かと、この曲に合わせて踊るのが上手そうな誰かと、この曲を書くのが上手そうな誰かと、この一曲しかないというのにいつもこの次の曲の中にいるように見える誰か。

September 15, 2010

20100915 (a)

何を原因にして何を結果とするか。



憂鬱の練習と、愛想が尽きる暇もない本番と、憂鬱の練習中の本番と、本番中の憂鬱と、社会化された憂鬱と、索引の作られた憂鬱と、郵便番号のような憂鬱と、電気信号のような憂鬱と、洗濯物が乾いていくみたいな憂鬱と、憂鬱である幸福と、憂鬱さのない憂鬱。


空を落ちるぎりぎりの花びらがいずれ水面に出会って濡れる時に知らされる不愉快な調和と、その描写を視覚化する視力の煩わしさと、単に経験が繰り返しているような気がしてならないという平衡感覚のない常套句的な実感と、どこまでを反復としてみるかという話し。


月光に透けている空の浮島に一瞬重なりながら空中でその身をひるがえすぎりぎりの花びらと、通過する列車に煽られて今度は弾かれるように宙に巻き上げられる花びらと、その動きの密度に迫ろうとしているそれぞれの描写や説明の密度と、何を原因にして何を結果にするかという話でもある話。

September 14, 2010

20100914 (a)

静止が静止している度合いを一言で言い換えて行くこと。



風に吹き流された目の前の景色と、風として吹き流されている目の前の景色と、目の前の景色に吹き流されている風と、風通しのいい体と、透き通るほどに見渡しのよい心と、終の住処と、言い様のない幻滅と、幻滅としか言い様のない別の何かと、線路に立って列車を待っている隊商の娘。


風の歌にも似たその年のある季節からある季節の変わり目と、曲がり角を曲がればすぐそこにあるはずの酒場と、坂を上るとそこにある半ばと、そこで待っているとてっきり信じ込んでいたものと、もしくはそれがもういなくなってしまったことのその理由に納得している人体にも似た身体。


保たれていた予感と、予感として保たれていたものと、状況の遷移を仔細に追いつづける文体と、静止が静止している度合いを一言で言い換えて行くことと、描写により状態の新しさを更新していくことと、目蓋の動きによくにた唇と、唇のかたちをしている文字。

September 13, 2010

20100913 (a)

収録と放送と再放送。



どこかにあるはずの折り目をいつしか見過ごしていた日々と、常に折り目として立ち続ける身体と、隣り合わせを幾度も擦り抜け続けた余裕の瀕死と、絶対に生き延びると貨物列車のくらがりで息を殺している隊商の娘と、娘が娘自身が消え去る可能性の記憶だけを最後まで持ち続けるということ。


外部にも内部にも存在しうる消失の可能性と、娘のなかで誰かの何かを思い出さなくなったときに参照されなくなるような一点と、その一点が含んでいる娘のかけらと、永遠に消失しながら永遠に蓄積しつづける消失の蓄積と、その体感速度と、船酔いしてると気付くための少し長い時間。


船酔いに気分を同調させてひとまず正気といってみることと、規則性のない運動に不規則な運動をぶつけて何らかの規則をさだめていくことと、不規則性の規則を書き足していくことと、規則性で切り取った渾沌なら収録と放送と再放送が行われていることと、それがどうしたってこと。

September 12, 2010

20100912 (a)

風穴に咲いた花。



二人分凍えているひとりと、一人分凍えているふたりと、風穴に咲いた花と、もしくは風穴という種と、風穴の受粉と、風穴から風穴を巡っているようにも思える銃弾と、一日のことを何千年もかけて消化しているうちに空を巡り始めていた浮島と、完全さを代償として支払った進化。


もしくは風穴に流れ込んだ夜風で淹れた珈琲と、目蓋に流れ込んだ夜風でさらさらと流されていく一日の記憶と、誕生日を知らない隊商の娘と、でもあれでしょという言葉と、誕生日を知らなかったら一年のどの日も誕生日である可能性があるわけでしょというどこかで聞いたような台詞。


お名前をうかがってもいいですかと赤子の名付け親になる前に赤子にそう尋ねるのを習慣にしている男と、この子供の名前は匿名にきまったぞと朗々と響く名付け親の男の声と、それ以来行方は全く分からないものの確実にわたしたちのひとりではあるその赤子。

September 10, 2010

20100910 (a)

あるひとつの花瓶から溢れたいまの海。



もう片方の目と照応しない片目と、もう片方の耳と照応しない片耳と、もう片方の脳と照応しない片脳と、もう片方の方向と照応しないどちらか片方の方向と、この理屈と照応しない方向の理屈と、さらにその理屈とも照応しない方向の理屈と、何かに照応しているこれらの理屈。


耳許に月を許す角度と、口元に笑みを許す角度と、その笑みに照れを許す角度と、その角度に構図を許す架枠と、その架枠に静止した波紋のような余韻だけの動きを許す角部屋の角と、誰かの笑みが波紋のように寄せた結果として油断も隙もない角部屋の角として両手を広げている直角。


血まみれの花みたいな朝露の庭園ともしくは花がじっとりと汗ばんでいるみたいな屋外の温室と、あるひとつの花瓶から溢れたいまの海と、その海を新たにすくいあげて体内で蒸留させて咲く花だとかもしくは空に咲く雲の花と、海が本来その青さを反射している雲一つない空の青い花。

September 9, 2010

20100909 (a)

死んだ記憶のふりをして今日も生き延びている娘。



地平線の彼方へ消えゆく線路を見送っている後ろ姿を背負っている感情と、その先に向けていつからかいつまでも伸び続けている線路と、その後ろ姿に感情として繋がっているはずのやはりどこまでも続いているはずの見えない線路と、その線路を通り過ぎる列車を待っている娘。


いつも口笛の先にある爪先と、爪先のさきにある視線と、つまりは視線である線路を走り過ぎていく列車と、その列車に紛れ込んでいまは毛布をひっかぶって眠ったふりをしている死んだ記憶の持ち物を漁っているような日々と、死んだ記憶のふりをして今日も生き延びている娘。


死んだ記憶の持ち物をまといながら今までになく生命を帯びている隊商の娘と、地平線の上に浮かぶ白い月と星の幾つかを目指して今は空の浮島をはっきりと頭上に据えている風速の主と、埃っぽい清潔な荒野と、水筒と、娘の体と、水筒の蓋と、娘の帽子。

September 8, 2010

20100908 (a)

靴紐や旅行鞄の紐が巧みに織り込まれた手編みの街。



真綿の雲と、水溶性の空と、話し声や排気音や動物が息を吐く音で編まれていく音楽と、それ自身に耳を澄ましているかのような音楽と、拳の地面と、地面がほどけたみたいな熱気と、街の熱気で編み物をしている隊商の娘と、靴紐や旅行鞄の紐が巧みに織り込まれた手編みの街。


手編みの街の編み目に指を入れて光りを導いている娘と、光りを照らす光りと、街の光りを照らす夕陽と、凍った雲を色だけで温めている空に沈みながら溶けていく太陽と、反復から自由になった一日の繰り返しと、反復から自由になった一秒の繰り返しと、自由な反復を貫いている一人。


幾年にもわたって反復を定義し直している娘と、未定義の反復と、反復のなかに反復が織り込まれているというような無限回数の反復と、たった一度しか繰り返したことがないというな反復と、これからもう一度だけ繰り返すと決められたというような反復と、反復の始まりと終わり。

September 7, 2010

20100907 (a)

嘘の嘘。



天空の白と、白と蒼と、青空と重ね着と、重機動の計算機と、手のひらの端末と、それ自身の地図のような街と、街の残骸と、街の残骸に暮らす人々と、さすらいの肌色と、肌の色と、肌の色に被さる繊維の色と、太陽に調光された真昼の深夜と、開けていく眺望に絞っていく焦点。


娘の唇の世の中を表している半開きの呼吸と、かつての未来の記憶のなかで娘に口づけていた男たちが奪っていった世界の形象と、そこに含まれていた彼らの満たされることのない欲望の秘密と、後になって満たされていなかったと気付くことになる欲望の秘密と、嘘の嘘。


隠し事をしているふりをしている朝と、隠し事をしているつもりになっている朝と、隠し事をしているふりをしながら何を隠しているのか分かってはいない朝と、隠し事をしていないふりをしながら実は隠すものすら持ち合わせていない朝と、隠しているうちに忘れてしまったものたち。

September 6, 2010

20100906 (a)

天国の練習と、地獄の実習。



天国の練習と、地獄の実習と、死についての知識の不足と、都市を模倣した目の光りと、言葉を縫う沈黙と、沈黙を縫う言葉と、人の形で抱き合っている文字と、一日の形で抱き合っている夜と朝と、その瞬きのような隙間で薄目を明けている隊商の娘の唇がくわえている小枝と虫の声。


夏と虫の声と、夢のなかで聞いていた声と、声のなかで聞いていた夢と、夢を抱き留めている現実と、手元と足下を確かめている焦点距離と、焦点距離のなかでいつもあやふやな色彩だけの空気感と、口元にあるように感じられない自分の唇と、声にして確かめている唇の形。


唇のかたちで捉えた言葉の響きと、そこから導き出した文字の形と、それに相応しい対象物と、つまりは娘の唇のかたちに相応しいこの世のものの形と、世の中を軽く掴まえている上唇と下唇と、舌先で形を整えた風を送り出す横隔膜と、夜明けを引き絞っている細い喉。

September 5, 2010

20100905 (a)

回想が記憶を追い抜く一瞬。



記憶と回想が競い合う場所で風に涼んでいる娘と、回想が記憶を追い抜く一瞬と、その記憶が刻まれた一瞬が風になり吹き付けている坑道の丘と、乾いた土地の上空を流れる湿った空気と、その真上で爛々と輝いている月と、月明かりを頼りに書き付けられた文字の上に据えられた石。


上空と地表とで色を違える月光と、月光に透ける空の浮島と、水晶のような機構の浮島の骨格と、夜風を呼吸している浮島の野草と、人影にも似た何かと、その人影が眠りの外側で見ている夢にも似たような何かと、人影が眠りの外側で見ている夢の内側で眠っている人影の細かい震え。


月明かりに透けている隊商の娘の首飾りと、季節により首飾りから身をよじらせるようにして小さな花弁を開く植物と、記号の植物と、記号の植物の記号をまとった鉱物と、月に透ける鉱物の記号をまとった種子と、乱雑な順序で季節の花を咲かせる内なる種子を涼ませる夜風と娘の体温。

September 4, 2010

20100904 (a)

判断なのか予感なのか余談なのか判別しがたい明晰さ。



朝焼けに夕暮れの群青を溶かし込んだみたいな寂しさとは別腹の孤独と、判断なのか予感なのか余談なのか判別しがたい明晰さと、熱と似ている夏と、秋と破棄は似ていると思う隊商の娘と、冬に似ている白湯と、春に似ている晴れと夜が霞がかっている晩夏の明け方に茶をすする同時代性。


一日に一度点滅する街の空と、一分に一度瞬きをする酔っ払いと、光りにより切り取られた風景と、転げ落ちた薬莢に詰まっていた一瞬の閃光や、空になった酒瓶に詰まっていた酔いの分だけ覚めてしまった顔面の茜や、茜色の瞬きを重ねながら朝焼けか黄昏かを数えるぼさぼさの髪の毛。


いつか回ってくる勘定を内心心待ちにしている酔っ払いと、今過ごしているこれがひょっとしたら勘定なのではないかという不愉快な憶測と、いつかこの俺にも感情は回ってくるのだろうかという期待にも似た不安と、さもなくばこれが感情なのではないかという不穏さにも似た胸の温かさ。

September 3, 2010

20100903 (a)

「例えば自分が消えても可能性だけはまだ残るのかしら」



片時も絶えたことのない誕生の予感と、それと同じくらいに馴染みの深い白けた絶望と、不思議でも当たり前でもない全てと、柔らかな衝突の感触と、衝突の柔らかな感触と、忘れる事と感じる事が肩を並べる瞬間と、例えば自分が消えても可能性だけはまだ残るのかしらと睫毛を整える隊商の娘。


いつか何かを忘れない時があるのならそれは自分にとっては一番大事な嘘なのだろうと未来の記憶のなかで考えている娘と、入り組んだ虚構を通底する単純な論理と、何かを覚えていることと、何かを忘れたことを覚えていることと、何かを覚えていることを別に覚えてもいない事とを巧みにすり替える作り話。


存在しなかった戦場と、同じく存在しなかった市街戦と、ただひとつ時を通して常にどこかを飛び続けている一発の銃弾と、実際には存在しなかった撃ち手と、その撃ち手を作り出すことによりいつの時代も夜を穿ち続けるその一発の銃弾と、いつかその銃弾に撃ち抜かれることを夢見ている心臓。

September 2, 2010

20100902 (a)

あるものとないもののどちらでも物足りないという過剰。



水筒と旅行鞄と長衣と、火薬と理想郷と現在地と、交易と共有と自生と、櫛と爪切りとかんざしと、さいころと数字と行き先と、地図と風向きと道しるべと、地震と音楽と耳鳴りと、街灯と戦火と星々と、大海と孤島と月明かりと、潮騒と沈黙と息づかいと、一日と昼夜と日付変更線。


押し花のような瞬間と、生け花のような宵の口と、ざわめきの揺りかごで目を覚ましながら夢を見ている情報の交通と、あるものとないもののどちらでも物足りないという過剰と、事実では割り切れない確率と、確率という美しさと、確率により描かれる横顔と、確率により目覚める寝顔。 


無を装った単調さと、混乱を真似た秩序と、翻訳文体で語りかける景色と、九月の光りと、その時に景色として収束したそれぞれの思惑と、その時にその時までいつからか時を越えて伝わっている思惑と、事実に似た何かと、結果に似た何かの原因に似た何かと、無表情に似た何か。

September 1, 2010

20100901 (a)

この酔いはいつになったら醒めるのかという素面な問いかけ。



まだ起こっていないことだけを覚えている隊商の娘と、空の浮島の巡回する径で雲をついばんでいる言葉の魚と、骨董品のような晴れ間と、にわか雨みたいな毛穴と、地図のように見える娘の瞳と、いつも道に迷っているような眼差しと、いつも見えている死。


坑道に差し込む光りと、目を覚ました時にいつもそこにいる誰かと、その誰かとひとりぼっちでいることと、煤けた水を飲む澄んだ血液に棲む言葉の魚のひとひらと、娘の記憶を食べてそれを言葉に換えている魚と、そこに音を与えている娘と、晴れた空の下の青い水たまりの表面を泳ぐ魚。


魚と銃弾を見比べて目を細めている酔っぱらいと、酒のなかを泳いでいる魚と、酒場のなかを泳いでいる酔っぱらいと、いつも心のなかの酒場で飲んでいる酔っぱらいと、飲んだ酒の分だけ醒めていく酔いと、この酔いはいつになったら醒めるのかという素面な問いかけ。

August 31, 2010

20100831

「振動板が聴いてる音に興味があるの」



それぞれが無に対して抱く原風景と、それぞれ色とりどりの不滅と、時間と速さを競っている景色と、風速と速さを競っている風と、鼓膜みたいに震えている振動板と、振動板が聴いてる音に興味があるのと呟いている足音と、中音域で表現された高音域の粗さと低音域の平坦さ。


これってまるで音楽みたいじゃないと皮膚感覚を軸に脊髄を楽しんでいる足音と、それはまるで心みたいだねと目の裏の夏を月光の日差しで受け止めている靴紐と、それはそれはまるで体みたいなことばかり言ってと悪戯げな口調の足音と、日差しの記憶で影の再現を試みている夜の路上。


高音域で表現された掠れた低音域と、低音域で表現されたくぐもった高音域と、風景のない音と、響きのない光りと、足下のない地面と、頭上のない空と、映画のない字幕と、人称のない声と、風速のない風と、記憶のない懐かしさと、旅のない行き先と、もしくは家のない帰り道。

August 30, 2010

20100830

「初めて聞く音をなんで音だと確信できるんだろう」



風を孕んだ帆を結ぶ影絵を指の影に絡めて路面の銀幕に風を走らせている足音と、天性の狡猾さで理解の及ばぬ春と夏のざわめきの影絵を固い地面の上に結んだ水面で揺らぐ空を少しずつ解いて影の足しにしている足音の指先と、夏を挟んで足音と向き合う頭上の月の裏面を描く影絵。


もう出掛けようよという声の影絵を影に結ばせようとして結局はつまらない咳払いを足音の背後に落とす靴紐と、初めて聞く音をなんで音だと確信できるんだろうねとその時に戯れに問いかける足音の無言と、なぜその無言を無言なのだと確信できるのだろうかと戯れに考える靴紐。


音を影絵で結ぶなんて本当に馬鹿げてるしあなたのその耳だってわたしの影が結んだ影絵じゃないのと路面に揺らぐ光りの水面を見つめたままの足音と、時間の影絵を結っている足音の面影と、過去の影と、未来の影と、現在の影と、それぞれの結ぶ影絵が寄り添う路上で光りが揺らぐ水面。

August 29, 2010

20100829

離ればなれの影が描く影絵が重ねている手のひら。



影がつくる影絵と、影がつくる影絵で書き上げられた地図と、日差しで霞む影の影絵の地図と、地図を記すために指を結び影絵を広げている足音の影と、影がつくる影絵が描く地図の中に住む足音に似た誰かと、そしてまた影絵で月明かりを描いている足音の影。


月明かりを照り返す遠浅の水面と、もしくは月明かりにより描かれる遠浅の水面と、影絵により結ばれた小舟と、影絵で結んだ風をはらんだ帆と、影絵で結んだ風を含んだ頬と、影絵で垂らした水で喉を潤している足音と、影絵で結ばれた乾きと、影絵で結ばれた雲の影に遮られる影絵。


影絵により結ばれた音と、影絵により結ばれた静寂と、声により結ばれた影絵と、静けさにより結ばれた声と、静けさを結ぶ声と、声を結ぶ静けさと、離ればなれの影が描く影絵が重ねている手のひらと、その手のひらどうしが結んでいる月夜の影絵と、影絵で結んだ眼差し。

August 28, 2010

20100828

それぞれの明日であるそれぞれの今日。



両の手のひらですくいあげた遠浅の水ではなく遠浅の流れと、遠浅の水面から手のひらの上の流れへと渡りそしてまた水面へと還る小舟と、その小舟を表面に浮かべている眼球と、それぞれの目の裏の死角へと流れていく小舟と、またそれぞれの目の裏の死角から流れ出す小舟。


息を吹きかけて小舟の周りにさざ波を立たせている足音と、足音の目の裏の遠浅の水面と、靴紐の目の裏の干潟と、それぞれの目の裏の船と、それぞれ水平線と地平線の向こう側のそれぞれの明日と、もしくはそれぞれの水平線と地平線を挟んで向かい合うそれぞれの明日。


足音の明日から地平線の果ての足音の今日を眺めている靴紐と、また靴紐の明日から水平線の果ての靴紐の今日を眺めている足音と、それぞれの明日であるそれぞれの今日と、夜が訪れる度に溶けて見えなくなるそれぞれの今日を明日で隔てる水平線と地平線に時折手を触れる月明かり。

August 27, 2010

20100827

秒針のかんざし。



焦点と、点描と、筆先と唾液の墨と、声に導かれる視線と、薄目を開けたみたいな暗闇と、蝋燭の月明かりと、体温の空気と、血液の湿度と、素肌の絹と、背筋で震えている重力と、潮流を真似ている髪の毛と、毛穴に散りばめられた虹の欠片と、驚きも冷静さもない深み。


未来からの音のような視線と、指に蚕糸を紡ぐ指先と、手のひらで押さえた月光と、手の甲で弾いた月光と、蜥蜴が笑っている部屋の片隅と、冷房と亜熱帯と、延焼している一日と、水差しに残った水と、影が震動して鳴っている音と、目のなかの死角。


長針と短針で梳いている髪と、秒針のかんざしと、水平線のような明日と、遠浅の水面を掻いている腕と指と指先と、肩の形に浮かんだ息継ぎと、背骨の形に並んだ水切りと、肩胛骨の海溝と、海岸線の背中と、耳の奥の潮力と、聴力の潮騒と、手のひらで掬い上げた水ではなく流れ。

August 26, 2010

20100826

音量を絞り切った目盛りから息づかいだけが漏れている夜。



音の風景と、茶屋から渓谷を下る山道と、首もとから背筋を下る汗と、汗の滴の曲面を撫ぜるように下る光りの艶と、午後の光りの支配的な直線のなかを下る重力と、髪の毛の一本一本をばらばらに解いて喪失の予感を描画している獲得への期待と、髪を摘む風と区別のつかない重力の指先。


すべて音の風景と、石造りの街で足を止めてはときおり空の浮島を眺める人々の朝と、街から廃坑へと向かう廃線となった単線の区間に自前の鉄道を走らせている技術者たちと、その線路に沿って栄える村落と、水飲み場に落ちる汗と、貯水池に沈んだ拳銃と、いつか貯水池に飛び込んだ晩。


もしくは無音の風景と、音量を絞り切った目盛りから息づかいだけが漏れている夜と、閉じた目蓋からもまた息づかいだけが漏れている夜と、閉じた表紙からも息づかいだけが漏れている夜と、もしくは四小節で反復する閉じた拍子からも息づかいだけが漏れている夜。

August 25, 2010

20100825

本当にあった本当のはなし。



一日であることを見失っていつまでも続く区切りのないなだらかな昼夜と、目の前のただ一点の画素で成り立つ途方もない都市と荒野と、心の目玉で折り返す画素を内向きに覗き込み果てしなく分裂しながらふやけていく六十数億のただ一点を足音が石の上で乾かしている夏のほとり。


つまりは一人であることを見失って果てなく続く区切りのないなだらかな無人である一人と、動機でも行為でもなくいわんや動詞としてでもなく述語としてのみ記述可能な一人であることの匿名の名称と、目眩の内側で足下を支えている余りにも確かな一点と、素肌で宇宙を裏返す足音の裸。


川のほとりの石の上で服を乾かしている足音の裸を視線で確かめている靴紐と、見えない雨で氾濫している川の水を滴らせて今も柔らかな足音の裸と、靴紐の視線を裏返して今も柔らかな足音の裸と、そうかと呟く靴紐と、そうかなと呟く足音と、今もいつでも本当にあった本当のはなし。

August 24, 2010

20100824

「大事なものは目に見えないっていうなら
 いま見えてるものを見ないことに決めた」



大事なものは目に見えないっていうなら今見えてるものを見ないことに決めたと憤然とした口調で言う足音と、散らかった机の上を片付けるようなその語調と、大事なものは耳に聞こえないといさめる靴紐と、本当に大事なことなら別に言わないからと鼻を鳴らしながら返す足音。


ねえこれどこかに向かってるのと詰め寄る足音と、これがどこにいたのかの方が気になると答える靴紐と、これが今どこに向かってるかはその先で振り返られれば分かるかも知れないしと言わない足音と、これって今どこにあるか分からなくてずっと探し続けてるものだと思ってたよと靴紐。


その時に遠くから聞こえた警報音と、振り返った空で再び高度を上げている空の浮島と、煤けた茶屋の軒から差し込む見えない日差しのせいで強調される見えない陰影と、その時に日差しと区別のつかない風と、その時に日差しと区別のつかない影と、その時と区別のつかないいつか。

August 23, 2010

20100823

両耳の奥で澄ましている音楽。



両耳の奥で澄ましている音楽と、大音楽堂の廃墟と、廃墟の廃墟と、売店の跡地と、陳列棚と冷蔵庫の割れた硝子と、座席が開閉する軋んだ音と、埃が積もる音に似た瞬きと、瞬きをするたびに空間を刷毛で開いているような睫毛と、震動を覚えている空気と、匂いのしない匂いのする空気。


いつも忘れた頃に思い出す残暑と、足音にとっての夏の中で夕涼みをする靴紐と、いつか大音楽堂の舞台で過去の自分との輪唱を披露していた足音と、今もその輪唱に新たな旋律を加えては過去を書き変えることなく過去の意味を変える足音と、鏡に映る過去に現在が始まる一点を探す靴紐。


それがいつ始まったのか誰も覚えていない輪唱と、果たしてそれがすでに一巡したのかどうかすらも分からぬ輪唱と、それが輪唱であるのかどうかすらも定かではない輪唱と、もしくはその始まりを誰かがその最新地点から常に書き換えている輪唱と、誰も終わらせることのできない輪唱。

August 22, 2010

20100822

鏡をだます言葉。



一日を流れる日々と、そこに流れを見るように騙される眼差しと、眼差しを映す鏡と、鏡をだます言葉と、靴紐と足音だけがいる景色にいない靴紐と足音と、その時に誰もいない景色と、その時にも誰もいないその景色を見ている誰か二人がきっといるに違いないという半ば諦めにも似た確信。


そこにいない靴紐を知っている足音と、そこにいない足音を知ってる靴紐と、そこにいない靴紐と足音を知っている靴紐と足音と、そこにいなければならぬ靴紐と足音を知っている靴紐と足音と、そこにいない靴紐と足音を知らぬ靴紐と足音と、そこにいない靴紐と足音を忘れた靴紐と足音。


そうしてそこにいない靴紐と足音を忘れた靴紐と足音と、空に浮島が低く浮かぶ日と、目に見えない日差しのなか見えない雨で水浴びをしている足音と、茶屋の屋根の下で居眠りをしている靴紐と、自分たちがそこにいることの光りで自分たちがそこにいないことの影絵を投げる足音と靴紐。

August 21, 2010

20100821

この先とそのさらに先のあいだにある現在。



茶屋の外を流れる川と、水を流れている川と、日付を流れる時間と、血を流れる血管と、原因を流れている結果と、体を流れている動きと、風を流れている空気と、遠くを流れているここと、いつかを流れている今と、靴紐や足音を流れている誰かと、いつも未来から振り返っている足跡。


いつも未来から振り返っている足跡のその更に未来から足跡を振り返っている爪先と、つかの間爪先と目を合わせる靴紐には気付かぬふりの足音と、足跡を流れている歩みと、旅行鞄を流れている旅と、この更にさきを流れていくこの先と、この先とそのさらに先のあいだにある現在。


それと同じでこの前とそのさらに前のあいだにある現在と、茶屋の前を流れる川とその先の海とを結ぶ水の流れと、未来を分割している現在と、現在を統合している過去と、過去を分割している現在と、分割という行為のなかで立ち止まったまま歩き続ける靴紐の背中を未来から蹴る足跡。

August 20, 2010

20100820

異国とはここのことだよ。



いつもより少し低めに見える空の浮島と積乱雲と、茶屋の卓に並んだ椀と、軒を見上げて染みを動かしている足音と、床の上で静止の姿勢のまま落下している背負い鞄と、茶の湯気を鼻の奥に通して沸き上がる郷愁と希望と、昔と何ら変わることのない季節の風采と、熱波と涼気と鼻歌。


音階みたいな曜日の名前と、鼻歌の音階と、曜日の進行と、異国の果物を皿の上に切り分けながら鼻歌を歌う娘と、異国とはここのことだよと目線で話しかけてきた世話人と、客人に茶を用意している娘の連れ合いと、過ぎた日々が淀んでいるみたいな茶屋の内装と、皿の上の李。


想像力に見立てた両の手のひらで顔を覆い居眠りをしている靴紐と、その上を通過する空の浮島と、想像力の真下で夢を見ている靴紐と、その真上で燃え尽きそうな午後の灯りの線条と、今日は太陽が見えないねと日差しのなか水遊びをしている足音と、今日は雨が見えないねと返す靴紐。

August 19, 2010

20100819

いつもになれば消えてしまういつかやどこか。



花束の夢の沈黙をさらに黙っているという行き過ぎた擬態と、都市の言いなりの暴徒の足音の豪雨のように響くさまと、不可能が不可能であることの限界の外側で受け取った一本の髪の毛を手首に巻いて風向きを測っている波打ち際に息を吹きかける風速よりも遠くの足音。


明日になれば消えてしまう五分後や一時間後と、来年になれば消えてしまう明日や明後日と、いつもになれば消えてしまういつかやどこかと、誰かになれば消えてしまう靴紐や足音のあとを追い続ける足跡と、今も消えていないいつかとどこかを吹き消そうとしてはいつも確かめる息。


息を吹きかけられてそれを風向きとして示す一本の髪の毛と、風に逆らって飛び立つ鳥と、息に逆らって口から喉の奥へと流れる言葉と、自分の吐いた息に逆らうために今も沈黙を黙っている靴紐と、靴紐の立て膝の姿のつぼみのように揺れる茎をくわえる髪の毛を両手でまとめ上げる足音。

August 18, 2010

20100818

飴のようにのろい時針と、割り箸の分針。



靴紐に結わいた羽根と、足音の骨と、秒針の秒速と、秒針で練られている時間の甘みと、飴のようにのろい時針と、割り箸の分針と、蛇口から降る雨と、雨で顔を洗い雨で風を洗い流している足音と、色が溶けてしまわないように瞳孔に記号を刻みつけている靴紐。


色を表現する記号の形とたまたま一致するに至った重要な意味を持つ日付と、飴のように暗号を練るかのように解読を続けている暗号と、いつかそこに暗号を見ることを諦めるときと、もしくはいつだったか気付かずにそこに暗号を見ることを諦めたときと、その時に省略された脈絡。


美しさに省略される脈略と、意味を目指した集合となる事により省略される脈絡と、部分的に共有された時や場所により省略される脈絡と、かき集められたそれらの脈絡の意味が意味である事の限界の外側と、また可能が可能である事の限界の外側で一本引き抜いた髪の毛で髪を結わく足音。

August 17, 2010

20100817

「そんなのは心とは言えないよ」
「そんなのは形とは言えないよ」



分解された夏と、粒子状の空と、熱を帯びた回転と、空を帯びた回転と、汗をかきながらいつまでも溶けない氷と、路面が砂原に変わった駅前と、扉が揺らぐ陽炎で開閉する鉄道と、噴水で出来た踏切と、入道雲を切り抜いた影と、そんなのは心とは言えないじゃないという足音の声。


体の中の人型と、温度を伝う皮膚と、鳶として滑空している烏と、烏として滑空している光りと、光りとして昼の中をさまよっている真夜中と、真夜中として町中をうろついている真っ昼間と、音として人々の心を流れている静寂と、そんなのは形とは言えないじゃないかという靴紐の声。


靴紐にとっては心と形を結びつけている言葉と、足音にとっては形と心とを切り離している言葉と、靴紐と足音との唯一の接着面であり切断面でもある言葉と、地表を挟んで背中合わせの都市と荒野と、言葉を挟んで背中合わせの足音と靴紐と、銃弾を挟んで背中合わせの風と風穴。

August 16, 2010

20100816

宵の涼しさのなか浮かんでいる記号で膨らんだ風船。



夜風の涼しさを運ぶ街角の熱気と、窓辺で交差させた両腕に顎をもたせかけて記号で風船を膨らませている足音と、できるだけ遠くに東を運ぼうとしている西日と、西日の中で足下の東を軸にして描く円弧で東をせきとめようとしている靴紐と、それらの円弧でやがて描かれる惑星の円周。


その円周で東を回転の中にせき止めている惑星の外観と、西日の傾斜で押し寄せる東により波立っている大洋と、東を帆に受けて波頭を切り分けている小舟と、東を目蓋の裏に受けて更に東を思い出したり思い描いたりしている靴紐と、靴紐にとってはいつも西日の逆光のなかに立つ足音。


靴紐にとってはいつも西日の逆光のなかに立つ足音にとってはいつも涼しげな東に向けて運ばれている靴紐と、東の群青から宵闇へと滴る足下の惑星の回転と、空を引き受ける頭上の追い風と、東を追いかける背中の追い風と、宵の涼しさのなか浮かんでいる記号で膨らんだ風船。

August 15, 2010

20100815

地表を挟んだ都市と荒野。



生を裏返しにして驚きを冷静に見つめ返す余裕と、また死を裏返しに冷静さを驚きを持って見つめ返す懐からはみ出た懐の奥行きと、現実を裏返しにしてその隠れた折り目からその更に裏面に染み込んで蒸発した朝日のありかを炙り出している蝋燭の月明かり。


先出しされた生と、もしくは後出しされた生と、もしくは生に中継された生の開始と、もしくは生の末端に中継された生の驚きと、もしくは生の驚きに中継された生の開始と、もしくは生の驚きに中継された生の末端と、もしくは生の末端に中継された生の再現と、地表を挟んだ都市と荒野。


生の再現により中断された生の進行と、速度に溶けた生の姿を半分の速度で確かめている速度に溶けた生の姿と、窓や地表を飾る水滴のあとかたに雨の様相を見る時計仕掛けの時間の流れと、生活の様相に生を見る紙一重の遊離との接着と、浮遊感と、粘り気と、日曜に平日を見ること。

August 14, 2010

20100814

あらかじめ守るために交わさなかった約束の数々。



真っ直ぐな波の中で揺れ動いている点と、花束みたいな人々と、花束の茎を結って約束に代えた遠くの草原と、あらかじめ破られるために交わされ続けた約束と、鳴り止んだ音楽の中で鳴っている音の中で踊り続ける午後の続きの午前中と、あらかじめ守るために交わさなかった約束の数々。


約束と人々と不意打ちの約束と、予定調和である回想と、今ここであるいつかどこかと、酒の匂いのする空気と、空気の匂いのする酒と、炎天下を待ち伏せる曇天と、明日を待ち伏せしている今日と、今日を待ち伏せしている明日と、年中振り向かす誰かと、今日もまた頂点に達した出発点。


過去から振り返る未来と、未来から逆算する現在と、現在から逆算した約束の数々と、高鳴る胸に高鳴っている胸と、他の誰かの高鳴っている胸に今日もまた高鳴っている胸と、胸を高鳴らせていた過去に胸を高鳴らせている現在と、現在から秒刻みで逆算している古く新しい未来の日々。

August 13, 2010

20100813

言葉が漏れた時に響く言葉のうちに籠もっていた音。



時に目を覚まし起きながら眠りそのものを養っている分隊の兵卒と、往来を培っている軒下の日陰に差し込む日差しの三角形と、擦れ違いざまに静寂を練って街角に喧噪を塗りたくっている交通にひときわ涼しげな蝉の鳴き声と、耳をふさいでも手のひらから響いて体を循環する憂鬱の姿勢。


ここにいない誰かの分を生きているその誰かと、その誰かのいない光景を目撃しようとしているその誰かと、そこにいない誰かの影を踏んでいるその誰かと、そこにいた誰かの思い出話を聞き流しているその誰かと、そこにいるべき誰かの代理人を果てなく務めるそこにいるべき誰か。


鏡の割れた時に響く鏡のうちに籠もっていた音と、言葉が漏れた時に響く言葉のうちに籠もっていた音と、雨が地を打つ時に響く雨のうちに籠もっていた音と、目蓋を開く時に体内から視界に向けて漏れる音でも独り言でも涙でもないいつも同じ一滴の滴の明と暗。

August 12, 2010

20100812

粉々になった鏡の中で身支度を整える娘。



目蓋の内側に匿った誰かと、万が一に備えて他の誰かの目蓋の内側に匿った誰かと、鏡の中の誰かの目蓋の内側に匿った誰かと、鏡に映った誰かの目蓋の外側に匿われた誰かに暴かれる誰かと、合わせ鏡のその片方にだけ映っているものと、もしくはその片方にだけ映っていないもの。


合わせの鏡の一方に映った娘の真正面からの姿と、その鏡を反射するもう片方の鏡に映ったその後ろ姿と、その奥の食卓にもたれかかる娘の水溜りのようなうなじと、その奥の鏡に映っていない半身と、真夏の対面に置くと真冬を映す鏡と、光をかざすと暗闇を映す鏡。


つまるところ鏡に映らない鏡と、鏡を映さない鏡と、音を映そうとすると静けさを返す鏡と、音が響く鏡の差し向かいでずっと静けさが木霊しているこちらがわと、粉々になった鏡の中で身支度を整える娘と、それからこれから仕上がる鏡に向けて歩き出すその姿は映さない鏡の外側。

August 11, 2010

20100811

いつかのどこかにいけばきっと誰かが何かをあれしてるんだろう。



いつかのどこかにいけばきっと誰かが何かをあれしてるんだろうと俯き加減で見上げている遙か足下の空と、話しを聞いてくれた誰かにありがとうと伝えたいというだけの長い長いお話だとかと、いつか今ここできっと誰かが忘れてしまったものを代わりに見渡している隊商の娘。


長靴と骨だけの傘と陽気な一団と、雨が降るのを待っているあいだと雨が止むのを待っているあいだとのあいだと、乾きなよと冷房のきいた部屋の奥から呼びかける声と、届きなよと室外機に風鈴をあてている音と、膨らみなよと風を抱いた洗濯物の青い空を個人的に羽ばたいている影。


震えなよと冷房のきいた部屋で肌に濡れた衣服を貼り付かせている紫色の唇と、慌てなよと路地裏で刃物を首筋に当てられてながら呟いている今にもはち切れそうな血管と、その通りだよと明らかに間違った発言に答える代わりにいつかの特に記憶にも残っていない通りに向けて伸ばす指先。

August 10, 2010

20100810

位置とあっち。



銃弾と成り立ちと、景色と立秋と、戦と行先と、風と頬と、鳶と星々と、眼鏡と留め金と、眼球と遠心力と、蝉の声と耳の中の水と、外耳と反響音と、指先と方角と、目蓋と撃鉄と、火薬と涙と、乱数と日常と、戦場と飲料水と、土地と土と、植物と繊維と、羽根とはがねと、位置とあっち。


そうだいつか深くまで潜った貯水池から顔を出してそのまま見上げた空の浮島と、西日に染め上げられた鉱山の廃線の単線の線路脇の断層の縞と、どこからか飛んできてどこまでも飛び続ける弾丸と、がらくたのような銃を取り上げてその弾丸を撃ったのは自分だと言い張る酔っ払い。


例え中心を撃ち抜かれるように的を移動させても必ず錐揉みをしながらその的を外す弾道を辿る銃弾と、夜の息の根を止めるべくいつか夜の息の根から放たれたその銃弾と、電線を伝わる銃弾と、無線を伝わる銃弾と、音速で水面を跳ねる銃弾と、天気予報と廃墟と銃弾。

August 9, 2010

20100809

目を閉じるのも億劫な一日の終わり。



机の水差しと、喉に水を撒く女と、黙ってうなじを垂れている斜めからの後ろ姿と、秒針と長針で短針を研いでいる夜の時間と、風に擦れている窓と、揺れる光に揺れている影と、開いた本棚の中で閉じている本の文中で揺れている光景と、物語を綴じるに能わない異国の言葉の背表紙。


草原から見上げる二階の窓と、拡散しきった黄昏と、夜に映り込む残照の影絵と、硝子の外側に触れている透明な内側と、屋外から覗く室内の調光の窓硝子の上の幻のような照り返しと、幻のような瞳孔に照り返す光景を内側から見てる視点と、目を閉じるのも億劫な一日の終わり。


いつも夜を手元に引き止める手つきと、いつもの夜の目つきと、いつもの夜のめっきと、いつもの夜の瓦礫と、いつもの夜の粘液と、いつもの夜の遍歴と、いつもの夜の原液と、いつもの夜の面積と、いつもの夜のせめぎと、いつもの夜の演劇と、いつも夜の巻くねじと、いつもの夜の契機。

August 8, 2010

20100808

未知と機知の兼ね合い。



指を鳴らしている声と、親指を弾いている喉元と音階のための新しい平仮名と、線と緊張となんどきも相対的な解放感と、音沙汰の根元で息を殺している本音と、声を打ち消す論理と、いまだ定義されていない静寂と、もしくは誤認されている静寂と、静寂の初期値と、風を運ぶ追い風。


音のない音楽と眠気のない眠りと、時間を必要としない時間旅行と、絶体のない多分と、心のない感情と、体のない身体と、閉じることのない円の円周率と、逃げ道のない逃避行と、問いのない答えと、輪郭のない形と、表通りのない裏道と、一日のない夜と、終点を持たない始発列車。


振り付けと境界線から解放された舞踏と、肌との摩擦を踊る血管と、自明性のない未知と、余りにも自明である無知と、未知と機知の兼ね合いと、内部のない内破と、外部へと手を伸ばす内破と、非鮮明な懐かしさと、火のない煙りと、水のない滴と、過去も未来もない懐古と、留め針。

August 7, 2010

20100807

空耳と五線譜を上下する音楽。


起きたら耳の中で鳴っている音楽と、誰かが目を覚ますのを待っていた音楽と、未だ誰かが目を覚ますのを待っている音楽と、目を覚ましても音楽が鳴っていることに気が付かない誰かと、誰かが目を覚ましたことに気がつかない音楽と、空耳と五線譜を上下する音楽。


首から肩から肘から手首から中指に人差し指を加えた砂の上の足跡と、足跡から波打ち際から砂浜から駐車場から遊歩道から横断歩道に壊れた信号機に好きな色を加えた街なかへの地図と、点と線と文字と言葉と文章と物語に声を加えた鼓膜で見ているかたちの新しいかたち。


花火の雌しべに触れる花粉と、その日も夜が明けたのだと仮定して花火から落ちた種を拾い集める数えきれない人影と、時折土の畝から散る生きた火花と、花火に花粉を運ぶ夜風と、その日も夜が来たのだと仮定して吹いている夜風と、その日もやはり一日なのだと仮定して過ぎる一日。

August 6, 2010

20100806

ここにいない誰かと入れ替わったどこにもいない誰か。



まずは鉄塔と入道雲と青空と、商店街と閉鎖された店舗と張り紙と、子供と盲目の青年と管理人と、服装と曲目と背表紙と、小銭と空き缶と空き缶の中身と、細部と成り立ちと後出しの全体像と、駅とどこからか続いてきた線路とどこからか続いてきた国道と、人と人混みと人混みの隙間。


そして何もない場所にある何かと、何もかもある場所にない何かと、確かにそこになければならない何かと、誰かがここにいなければならないようにしてるそこにある何かと、ここにいない誰かと入れ替わったどこにもいない誰かと、ここにしかいない誰かと肩を並べるどこにでもいる誰か。


それから街と街並みと、時間と時計と、炎天下と散った桜と、体の外と頭の中と、平面と高さと、奥行きと消失点と、来た道と足下と、温度差と陽炎と、扉と花びらと、西日と唇と、音楽と耳のなかで動いている唇と、過去と未来と、今日とまだ見たことのないものばかりが見える。

August 5, 2010

20100805

聞こえない物を聞くために聞いているような音楽と、
見えない物を見るために見ているような色彩。



日に焼けた首筋から肩への痛みとうたと、年表にも伝票にも残らない今と、今である過去と、その後ろのかっこの中に点線で書かれている未来という文字と、その点をでたらめに結び繋げていくその先と、その先の先からこのちょっと先を振り返っているような懐かしい今と、新しい過去。


あらすじと本筋が入り乱れている万事と、犯人と探偵と被害者が同じひとりの探偵小説のいつまで経っても初めの一文字が書き足されていく最新の一行と、それと同じで最後の一文字を最初に書いてしまった書き出しの一行と、一秒が溶けてさかいめが分からない夏の一日。


聞こえない物を聞くために聞いているような音楽と、見えない物を見るために見ているような色彩と、届かない物を届けるために確かに届けている小包と、待ち合わせも約束もないままただ間に合い続けている手遅れの通過点と、本名もあだ名もなくただ出会いだけが通り過ぎる匿名の日々。

August 4, 2010

20100804

水平線まで海が一滴。



波の中心の軸と、軸の外側の円周率と、円周率を囲んだ年輪と、年輪に囲まれた季節と、歳月の中心のいつも同じ朝と、空缶みたいな夜を鞄に入れて理由の外側で飲み込む唾を満たす開け放たれた窓と、後頭部を一つまみにする髪の毛と、髪の毛を一つまみにする親指と人差し指と中指。


自生する夏と、年輪と花火と扇風機と、指紋と台風と腕時計と、蚊取り線香と目ん玉と十円玉と、涙みたいな汗と、風みたいにそよいでいる防砂林と、果肉の味がする炭水化物と、潮騒に黙り込む圧倒的な蝉の鳴き声を真似た目眩と耳抜きと、脱け殻を満たす海水と、水平線まで海が一滴。


過ぎなかった季節の延長線上にある夏と、南中する地球と、この夏の延長線上にある決して訪れる事のない季節と、窓際で扇風機に当たっていると何故か壁に触れる感触のする背中と、時間によく似た可能性と、確率とは似ても似つかない夜風と、言うまでもないと言うに値するということ。

August 3, 2010

20100803

意味はないが特別な日々。



匿名性の署名と、目眩が焼き付く静止画と、写真を挟んで初めて自明性と向き合う視覚と、鏡を挟んで向き合う場と遠近法と、日付変更線を挟んで向き合ういつからかと昨日までと今日からと明日からと、次の日付変更線を挟んで向き合う昨日までと今日までと明日からといつかまで。


問いと答えを離ればなれにしている人間の意識と、政治的に非政治的な存在と、汗に張り付いた涼しさと濡れた生地と体からはみ出た重みと、理解の後の時間の長さと、これ以上はない程の一筆書きにより書き換えられる過ぎた描線の意味合いと、秒針と手拍子と麦わら帽子を被った背表紙。


最高気温と体感温度と、基音と最高倍音と、脊椎を掻き鳴らしている六弦の響きと気音と、思い出してもいないのに窓の外を流れる風景と、思い出しているのにそこにはいなかった窓の内側で佇む唾を飲み込む音と、忘れたって事をいつまでも思い出させる音楽と、意味はないが特別な日々。

August 2, 2010

20100802

記憶に映り込む記憶ではないものの影絵。



行為としての行為と、粉々に砕けた中身を検分している全体と、億の細流の一つの感触と、感触として偽装された非接触の事実と、距離を感触としてとらえるための器官と、その器官を距離として捉えるための感触と、砕いた距離のひとつまみで描く架空の距離と、時間という文法。


一つの細流の億の感触と、言葉により導入された細かい物語と声と、ある尺度の上で重なり合う沸点と凝固点と、どこかといつかがいれかわる今とここと、いつかどこかで入れ替わった音と静寂と、視覚に映り込んだ視覚以外のものの面影と、記憶に映り込む記憶ではないものの影絵。


濡れた感触だけが降っている雨の影絵と、影絵だけが降っている波紋の水たまりと、波紋の中心に向けて正確に降り続ける無数の雨粒と、地図に降る雨と、重力ではなく幾何学により制御された雨と、濡れた紙と髪の毛と、風にはためいている紙と髪の毛と、地図の折り目を実際に流れる川。

August 1, 2010

20100801

一回きりで古びた懐かしい停留所。
いつか割り損ねた西瓜のその種を植え直している朝顔。



おそらく眠気の対義語である眠りと、眠りを裏返して肌の裏に張り巡らせた平熱と、目蓋のような日めくりの暦と、関節と重力と筋肉で乾かす背筋と、溜め息を充填する猫背と、撃鉄のようなうなじと、たえず初速を更新している終端速度と、まばたきのように繰り返している休日のあくび。


夏日のあくびと、血色の薄い肌と西瓜と、これから訪れる夏をざるで受けて氷で冷やしている日差しと停留所と、一回きりで古びた懐かしい停留所と、日傘と、首に巻いた布と、打ち水を灼く路面と、視界のように揺らいでいる熱気と、いつか割り損ねた西瓜の種を植え直している朝顔。


自分がそこにいなかった光景についての曲で飾る自分がそこにいることについての光景を聞き流している朝と冷房と、麦わら帽子と髪の毛と耳飾りと、気怠さを加速している朝方と、もう眠ってしまうのと問う声にまだ眠っているのと問う声と、おはようとおやすみとおはようのあいだ。

July 31, 2010

20100731

理由のように理由をもたない自由。
二十一世紀なんていう前世紀までの仕組み。



もしくは後ろ姿を抱きすくめている肩幅と顎と口元と、耳にかかった髪の毛と、前触れみたいな目の前と、背を向けている目の前と、目の前の目の前にある後ろ姿と、その目の前にあるはずのものと、もしくはこの目の前の後ろ姿の目の前にあるはずのもの。


液体のように正面を持たない器と、器のように正面を持つ液体と、記憶のように前後する日没と日の出と、記憶のように前後する行動と意図と、理由のように理由をもたない自由と、風のように形を持たないばらばらにほどけた涼しさを束ねている肌と、体の中で肌の形に破裂している街角。


二十一世紀なんていう前世紀までの仕組みと、前触れのような余韻と、両面に何も刻まれていない可能性と呼ばれる硬貨を弾く指先と、弾かれた硬貨に誘われて見上げた空と雲の無責任な広さと、朝なのだか夜なのだか分からぬほどの暗闇であると分かる光り。

July 30, 2010

20100730

片目のまばたき。



柔らかな波となった後ろ姿が振り向きざまに寄せては返すその肩にさえ触れられれば手のひらに残りそうな五分前の未来と、五分後の過去を思い出しながら振り向こうとしている柔らかな後ろ姿の波が真正面を抱きすくめて身動きを取れなくしている写真的な記憶と、片目のまばたき。


隠されたたとえを見つけ出す遊びに隠されたたとえと、五分前に体を通り過ぎた五分前の一秒前を再現している二秒先をそのまま二度振り返った勢いで三秒先へと向き直るこれまでに流れてきた時間の多分全てと、そこにありはしたけれども流れてはいなかった時間の細部。


流れていなかった時間を背景にしてずっと流れている時間と、五分前を繰り返している五分後の五分前と、右回りに振り返ったために左に向けて更に強く張り詰める一秒前に流れなかった時間を目指して更に右に向けて覗き込もうとして結局は一秒後へとたどり着く半身の後ろ姿。

July 29, 2010

20100729

全部から余りを丁寧に差し引いた残り。



朝起きて手に受ける滴に滴る乳白色の重みと、全部から余りを丁寧に差し引いた残りと、目蓋の裏の砂嵐と、体内の海と、岸辺の肌と、呼吸の波と、息を含み重くなるばかりの砂と、胃袋で重い空腹と、酸素で届く郵便のような目覚まし時計の悲鳴と、意味も無意味も判然としない薄闇。


ずっと前から変わらないねと繰り返すずっと前から変わらない声と、分かろうともしてないんでしょと詰め寄る分かろうともしてない声と、偉そうだねと吐き捨てる偉そうな声と、あなたはそこにいるんだよと説き伏せるそこにいない声と、聞かないでよとふざけた口調でいう聞こえない声。


聞こえない振りは止めてよと言ってる振りをしている声と、そんな筈はないでしょと言ってる筈のない声と、いつまでかかるのといつまで経っても言い終わらない声と、いつからだっけと言い始めたのはいつからだっけととぼける声と、無理なのは分かってるでしょと無理を越えて届く声。

July 28, 2010

20100728

生身の鏡と絡み合う中身。



一年から外れた夏と、一日から外れた夏と、袖と襟と肩幅と丈を裏返して椅子の背で肌着を乾かしている夏と、一部屋の夏と、一夏の夏と、一眠りの夏と、一言の夏と、独り言の夏と、他人事の夏の焦点距離で最高気温を更新している夏と、夏の真夏と、夜の夏と、春のような夏。


唇から偽薬と、耳にいたこと、君に居た子と、日々似た子と、響いた個と、ひびの入った弧と、指の結った帆と、意味の言った音と、笑みの知った人と、ひととおり散った恋と、人と居り知った事と、人通り走った夜と、見ての通り確かだよと告げる君の内側の外。


明くる日も手繰る紐と、波から響いた弧と、誰に聞いたのと問うた日と、それはそうとそれはそうだねと反らせた背に沿った茎のしなりと、水のなかで煙のように漂っている酔いと、鏡の中身と、生身の鏡と、生身の鏡と絡み合う中身。

July 27, 2010

20100727

缶珈琲の生まれ変わり。



眼球に座り込む駅前の広場と、指で測る丘の上までの距離と、惑星の滴と、半球状の空と、缶珈琲の生まれ変わりと、川を渡る線路を歩いている足音の背負い鞄の口を閉じる靴紐と、陽炎と火花と、財布と携帯と、磁気と静脈と、脇に挟んだ地図と、番号の外側をさまよっている数字と、言葉の外側の文字。


いつかとして響く旋律や目をつむっているのに聞こえて来る花の匂いと、液体と気体のあいだで滑らかな摩擦を味わっている皮膚や帽子の形をした影法師と、電池切れの睡眠不足や首を軽く上げて遙か先の陽炎をあごですくいあげている不眠症患者と、音だけが降っている雨や居留守のように広げた傘。


銃弾のなかった弾痕と、地上のない空と、出発地点のない目的地と、原因のない結果と、呼び方が存在しない名前と、今朝が存在しない今夜と、眠りのない眠気と、一人称が存在しない二人称と、水筒や弁当や針金や木の枝を手に川を超える線路を歩きながら今年こそは夏の向こう側に渡ろうとしている一団。

July 26, 2010

20100726

象形文字みたいな裸。



例えば空気として体内に循環している外側と、循環している境界線と、筋肉や肌の綿飴と、波打ちながら交差して手前に向けて奥行を隠す幾筋もの空っぽの線と、水平を保つべき絶頂と、絶頂を水平に保つための旋回や傾斜と、中断を意味しない終わりと、順番のない連なりと、場所に左右されない位置の上下。


例えば形ではなく色としてだけそこにある光りと、眼球が存在するようになる前の世界の光景を想像する事の無意味さと、脳味噌と完全な釣り合いを保つ眼球と、風速の髪型と、色により表示された確実な動きや硬さと、静止という動作と、結晶の内に結晶化する結晶の規則を書き足していく書き足された結晶。


例えば象形文字みたいな物体を机の上に並べて綴った文章と、それから散文のような街並みと、象形文字のような風や光りと、象形文字のような服飾と、象形文字みたいな裸と、それ自体が暗号鍵である暗号と、復号しても変化のない暗号と、象形文字で書かれた暗号と、結局は計算式であるような暗号。

July 25, 2010

20100725

年中を定義する無休。



光りを修飾する形と、影に握られた足の長い胴長の細長い頭と、平坦な地面として立ち上がる銀幕と、肉厚な表層と、合図を合図だと指示する二つ目の合図と、二つ目の合図の後に途切れる心象と、間隔を指示する時の流れと、静止と慣性のあいだで脱力を受け止める大きな液体と、浮遊している沈殿物。


大まかな遺伝と、時の流れの合図として継承されていく様式の変化と、時の流れを合図とする形象の自律的な変化と、形象の内側を移ろう顔や名前と、綱の長さを調節しながら緊張感を演出する選択の自由と、選択の自由として演出された綱の長さと、目的と嗜好と、最低限の拘束を記述する洗練と機知と拘束。


拘束を外側から噛み砕く大切な表情と、違った縮尺や倍率や進法で切り捨てられる平価を水平に育てていく傾斜と、年中を定義する無休と、合図としての呼気と、合図としての吸気と、浅くはなく深さしかない目の前の壁に潜っては振り返り余所を見て中心から探る空間の粗と、存在しない外側から語る内側。

July 24, 2010

20100724

唇のような睫毛。



長衣をひるがえしながら銃弾を指で摘むようにひらひらと舞う隊商の娘と、唇から漏れる上昇気流と、砂浜に残る涙の形をした爪先の足あとと、蜃気楼の果てに揺らぐ都市建築が画素となってぽろぽろと零れ落ち山脈と霞とを形作る三十秒の広告と、情報と交感の戦記と、雨粒の粗い画素と、波紋の様な升目。


雨雲の形をした情報の升目と、紫陽花の面影を残す朝顔と、浜辺沿いの道をなぞる低い木の柵に誰かが忘れたままの上着を羽織る酒飲みと、誰かが忘れたままの酒飲みを新しく飾る上着と、奥歯みたいな踵と、前歯みたいな目蓋と、唇のような睫毛と、こがね色にくすんだ古く新しい未来の日々。


生ぬるく新鮮な風と、上空の蒼から崩れる雨粒の画素と地上で入れ替わる砂粒と、浜辺の光景のなかで思い出により塗りつぶされた三次元の升目で不格好に組み合わさる笑顔や寝顔と、いつかの春夏や秋冬の新作と、確かに目に見える笑い声と、人や物の形でそこらじゅうにひしめいている世界の骨。

July 23, 2010

20100723

肌から透けて骨に染み込む木漏れ日のような重力。



片目を閉じた空間の背景と、薄目を開けた人影の焦点と、音源と重なり合う光源と、光りが響いている涼やかな屋外が染み入る室内を掻き消す空調の作動音と、脳波に合わせて上下する鼻歌と、六弦の弾道と、喉元の爆発音と、鼓膜に座り込む感情の記憶と、色数を数えている抽象画の陰影と、割れる窓硝子。


軽く閉じた手のひらを聴いている左の耳と、右耳で追いかけている銃弾の軌跡と、ほとんど目で見えるような豊かな倍音と、意味に届かぬように操作された絶妙な間合いと、空白を彩る数々の華やかな音色や音階と、鮮明に掠れた歌声と、残響が重なり合う階段状の音響の上で出会う風穴の様な沢山の鼓膜。


耳で聴いている光りと、一秒ずつに切り分けた数時間の緩急と、その局面の一つ一つで拓けては置き去りにされる荒野や半開きの扉と、肌から透けて骨に染み込む木漏れ日のような重力と、体重に体を預けて筋肉で加算していく日没や日の出の角度と、ただ抗いようのない日中。

July 22, 2010

20100722

一年や一月や一日の中で完全な釣り合いを保ち続ける一秒。



そして水の匂いと、服の匂いと、遠い雨の匂いと、縁の匂いと、空気に漂う様々な線の匂いと、白鍵を叩く匂いと、缶が開く匂いと、喉が渇く匂いと、目が醒める匂いと、自分が歩いていたりもしくは単に寝そべっていたあとに残る流れてしまった時間の匂いと、これから流れる時間の匂いと、海の底の匂い。


閉じたまぶたに浮かび上がる眠りと、寝台と釣り合う体の重みと、漠然とした昼の暗闇に射し込む漠然とした光りと、舌の味と、家具の景色と、床で完全な釣り合いを保つ幾冊もの閉じた本と、閉じた本の中で完全な釣り合いを保つ幾つもの活字と、一年や一月や一日の中で完全な釣り合いを保ち続ける一秒。


閉鎖された後にまた開放された空港と、弾痕の残る旅券と、朽ち果てた終着駅の天蓋の平面で重なる快晴の空の蒼と、日光の断面で風をそよがせている変色した貼り紙と、かつて地下室だった床から見上げるとそこに見つかる入道雲と、夏に重なる別の様々な季節の景色と、今もどこかを飛び続ける一発の弾丸。

July 21, 2010

20100721

書架と真夏を横切り巡る銃弾の旅路。



銃弾と夜と、そよ風と音速と、皮膚と血液と、射程距離と瞳孔と、金属と筋肉と、回転と上腕骨と、もう一つの回転と大腿骨と、熱と悲鳴と、視線と刈り取りと、顔面と花と、心臓と火薬と、週末と戦場と、野営地と隊商と、分隊と星々と、井戸と方位と、無呼吸と思考と、水面と手榴弾と、茂みと閉じた瞳。


右腕で曳いた効果線と、左足で受け止めた地面と、支給された銃器と、訓練を思い出している体勢と、右と左や上と下を裏表にしている軸の定まらぬ空転を波乗りしている疾走感と、倦怠を組み立て直している技術と、捏造を捏造している純粋な期待感と、前に乗り出した狙撃手の体を水平方向に支える反動。


褪せた茶の城壁と、足跡さえ残らぬ雪原と、土と排泄物の匂いの混じる馬長屋の軒と、白く透明に泡立つ波打ち際と、冷房の効いた部屋と、夏草の生い茂る平原と、大陸の西岸を南北に走る前世紀の幹線道路と、様々の信号の入り混じる平坦な画面と、静けさが平行に並ぶ書架と真夏を横切り巡る銃弾の旅路。

July 20, 2010

20100720

回想の焦点をくぐるただ一繋がりの時間。



まだ起こっていない出来事だけを覚えている隊商の娘が思い出している決して生きられることのない永遠の全てと、目の前の丘陵と、突っかけのなかの砂と、存在の窓辺の外を流れる景色と、存在の窓辺の内側で光る日光と、ありとあらゆる感傷を裏返しにして可能性だけを記憶に込めた存在の窓硝子の瞳。


家屋も壁もなくただ窓と窓硝子もない存在の窓辺と、屋外である娘の体と、体内である日光と、爽やかな風と、砂の粒のひとつひとつが転がる様子と、目を閉じると裏返る目蓋と、また目蓋で裏返る内外と、内外で裏返る目蓋と、人と出会う度に可能な名前を次々と乗り換えてしなやかに生き延びる隊商の娘。


銃弾をかいくぐる夜と、死と分隊と、怒号と、金属音と、爆発と、中空と、地面と、打ち身と切り傷と、ばらばらになった隊商と、夜のふもとで柔らかに隆起している丘を走る靴ともう一つの靴と、既に存在しない背後と、踏みしめた先から消えていく足下と、回想の焦点をくぐるただ一繋がりの時間。

July 19, 2010

20100719

永遠に生きているのではないだなんて絶対に信じない。



七月の空模様の重力と、重力のありかと、人通りを貫いている幾本もの道と、幾本もの道を貫いている方角と、街区の地下に面陳された映画の色彩と、映画の色彩に面陳された歴史の切り口と、懐かしさとは無縁の記憶と、記憶とは無縁の回想と、血液と電流と、電流と夜風と、夜風の電圧と、電圧の溜まり場。


記憶とは無縁の懐かしさの中でまだ飲んでいない酒の分だけ酔っ払っている酒飲みと、まだ出会っていないその酒飲みのことを思い出している隊商の娘と、ある夏の夜に偶然目にした隊商の娘の後ろ姿と横顔に惚れ込んだ酒飲みと、まだ出会っていないその酒飲みを記憶の中で適当にあしらっている隊商の娘。


永遠に生きているのではないだなんて絶対に信じないと呟く隊商の娘が覚えている自分の様々な死と、記憶の裡にある自分の死を超えて育っていくことを誓った先からそれを忘れていく隊商の娘と、これが記憶だなんて信じないと思うであろうことを思い出さない可能性の中で酒飲みの前を通り過ぎる隊商の娘。

July 18, 2010

20100718

まだ飲んでない酒のぶんだけ酔っ払っている酒飲みと、
まだ起こっていない出来事だけを覚えている隊商の娘。



作品により見つめられている目と、文字により見つめられている言葉と、言葉により見つめられている概念と、地図により見つめられている地形と、地形により見つめられている座標と、風の隊商の娘と、ある地図のありかを示しているその地図と、地球よりも先にあった地球儀と、言葉よりも先にあった文字。


意味と音から自由な文字により書かれた詩と、舞台裏だけがある今も賑やかな劇団と、まだ飲んでない酒のぶんだけ酔っ払っている酒飲みと、まだ起こっていない出来事だけを覚えている隊商の娘と、地上や地下の酒の全てを飲んで素面に戻るその酒飲みと、いずれ訪れる完全な忘却を既に覚えている隊商の娘。


俺が僕ならそんなことはしないねと内心で思っている声と、僕が俺ならきっとそうするのにともどかしく思っている声と、その声を聴いている声と、横隔膜に背を押されたその声と言葉の舌先でのつかのまの逢瀬と、誰かの耳許でもう一度会おうとだけ呟かれた約束と、互いも約束も忘れて再び出会う声と言葉。

July 17, 2010

20100717

現在としてのこれから。



またとない二人と、またいない二人と、まだいない二人と、まちがいない二人と、場違いな二人と、もしくは場違いな一人と、もしくは場違いなもう一人と、二人の中心と、二人の果てと、二人の岸と、二人の船と、一人の海と、もう一人の海と、一人が二人と、二人が一人と、二人が二人。


現在としてのこれからと、記憶の働きによって束ねられた感受の生傷と、感受の生傷の造型と、絆創膏のように片目を瞑っている言葉と、同じく絆創膏のようで目を開いて耳を澄ましている静寂や沈黙と、また静寂や沈黙に吹き替えられた独り言の字幕が点字となって浮かび上がる肌を撫ぜている空調の指先。


不完全な夜をよりあわせた不格好な朝の景色と、思い思いの落下を思いに浮かべている濡れた羽毛と、濡れた羽毛の乾いた記憶と、毛先の柔らかさを真似ている毛先の形と、わたしが選んだ変化や選択を選ぶのは別にわたしじゃなくても良かったんだよねと事も無げに言っている沈黙ではない風のなかの静けさ。

July 16, 2010

20100716

気配だけで咲いている花。



無と最低限の間で落ち着く最高潮と、花の気配のなかで目をとじている瞳と、気配だけで咲いている花と、気がつけば気配だけで流れるいつもの良い曲に耳を傾けている午後と、自分の足音に合わせて踊っている足音と、その足音に合わせて踊っている足あとと、また他の大勢の人々の足音と伴奏しあう足音。


完璧さを担保に未熟を嗜んでいる中庸と、愛を担保に不理解を嗜んでいる二人と、目の後ろを担保に目の前を嗜んでいる振り子のような中心の中の心と、今のところを担保にきっかけを嗜んでいるそもそもと、今ここを担保にこれからを嗜んでいるこれまでと、擦れ違いを担保に淡い希望を嗜んでいる表と裏。


誰かの影が誰かの影にそっと口づけをしている路面から都市の論理に従って広がる町の地図と、虹の色彩を決定している雨上がりの日差しの角度と地表と建造物の輪郭線と、雨の角度を決定していた上空の風と、影と影のくちづけが濡れてきらめいている路面と、雨の最後の一滴と、つまりは何かの最初の一滴。

July 15, 2010

20100715

繰り返していないようにしか思えない呼吸。



水滴に垂れた肌と、水滴のうえに横たわる女の肌と、女の肌の上に横たわる水滴と、水滴を弾いている女の肌と、水滴を形作っている女の肌と、水滴から垂れている女の肌と、水滴から垂れている女と、女から垂れている水滴と、水滴に横たわる女と、肌に映り込んだ水滴の女と、女の水滴と、女の水滴の肌。


別れを迂回して新たに出会うことを繰り返しては忘却に寄せている日々と、出会いを迂回して日々と別れることを繰り返しては日々に足を踏み入れようとしては記憶に入るひびと、何かを繰り返しては何かを繰り返すまいとしている日々と、延々と鍵盤を叩く指先で踊ることと、それを繰り返し聴いていること。


硬い反響がニ拍目と四拍目で繰り返し乾いている中音域と、繰り返しているようで決して繰り返してはいない繰り返しの繰り返しを繰り上げるべきだと思える繰り返しと、繰り返しを貫いている一回きりと、一回きりだと何度も繰り返し告げている繰り返しと、例えば繰り返していないようにしか思えない呼吸。

July 14, 2010

20100714

さよならみたいなこんにちは。



背負い鞄のなかの缶詰を開けて腹ごしらえをしている足音と、さよならみたいなこんにちはと、足をぶらぶらさせている水面のうえで風の音に合わせて踊っている誰かの影と、木々のざわめきに合わせて鳴っている風の鐘と、風の鐘の内側に回り込んで螺旋を描きながら最高気温を試している気圧の谷間。


決して眠らない不眠症患者の夢の中を旅している足音と、決して出会う事のない二人と、決して別れることのできないその二人と、世界で一番幸せなその二人と、世界で一番不幸せだとも言えるその二人と、その意味では二人とは呼ぶことのできないその二人と、その二人ではなくてはならない二人が二人。


いつか静かな眠りにつくであろうまた別の二人と、いつか陰の裏返った日差しのなかでまた別々の二人として目を覚ますであろう二人と、様々な二人と、様々な二人きりと、互いに六十五億人を超える二人きりと、決して二人だけとは限らない二人と、または二人までしか数えることのできない二人が二人。

July 13, 2010

20100713

心臓のような希望。



装飾のように音楽を身にまとっている女と、残響音みたいな視線と、いつも何かに似ているのにいつも何にも似ていない何かと、背筋の椿の項を垂れている夜の粒子と、夜にしか思い出さない夜のことと、現在の跡地で蛇口から水が垂れている音と、体のなかで水滴が垂れている音と、肌に水滴が垂れている音。


ばらばらになった光りの影と、影をひとくるみにしている光りと、網膜に焼き付いたひとがたの手足と、手足に焼き付いた手足と鼓動の関係性と、不眠症患者の手足と、手足の一日と、一日のような日々と、言葉がこじ開けている足音の唇と、唇の立てる様々な音と、唇の影にそっと口づけしている誰かの影。


心臓のような希望と、眠りのような祈りと、繰り返して近づいては離れて行く抱擁のような歩みと、いつも忘れているといつも覚えていることと、一日のうちの一秒の真夏を測っている体内時計と、一年の暦が測っている幾つもの過ぎた夏と、春の余韻と秋の予兆が混ざり合う夏の一日と、気分だけの秋口。

July 12, 2010

20100712

日記のような予定表。



面影の後ろ姿と、不眠症患者の面影と、背中の遠くの正面で髪がなびいている睫毛のすぐそこの横顔を見つめている鼻先の触れ合いと、距離とは呼ぶことのできない距離と、近さとも呼ぶことのできない近さと、気の入ってない会話と、ふたことみことの伝言と、買い物の覚え書きと、日記のような予定表


そして意味と絡み合っている体と、そして血液と絡み合っている酸素と、そして熱狂と絡み合っている退屈と、そして週末と絡み合っている木曜と、そして音色と絡み合っている音量と、そして話し声と絡み合っている目線と、そして地面と絡み合っている空と、そして静けさと絡み合っている二人の沈黙。


いつか今日だった昨日と、いつか思い出していた今日と、いつか忘れてしまっていた明日と、いつか花のように開いていた壁の落書きと、いつか唇のように閉じていた鍵括弧と、いつか首回りのようにくたびれていた町と、いつか感情だった記憶と、いつか行き先だった出発地点と、いつかいつまでもいつも

July 11, 2010

20100711

今のいつごろ。



口笛みたいに鳴っている夜の空気と、草笛のような唇と、時間の流れみたいな時間を過ごしていることと、時を幾重にも織り込んで半分に切り分けたその断面図と、断面図としての円盤と、未来方向や過去方向や反未来方向や反過去方向へ向けて四分円を順にそして同時に旋回している円盤と、今のいつごろ。


壁の凹凸と、模様で描いた上下左右と、奥と手前の足音ふたつと、足音の姿態の誰にも媚びることのない艶やかさと小さな怯えと、その二つが互いをまたぎながら進んでいく数々の街と、数々の窓の外と、数々の廊下と、数々の心と、数々の時代を同時に歩いている姿と、歩いている行方不明の人相書き。


二十四時間遅れた時計と、時計よりも遅れている時間と、時間よりも遅れている日没と、日没よりも遅れている夜明けと、夜明けよりも遅れている日の入りと、日の入りよりも遅れている昨日と、昨日よりも遅れている去年と、去年よりも遅れている十年前と、十年前よりも遅れている明日のようやくの到着。

July 10, 2010

20100710

微笑んでいるみたいな透明。



懸命な無と、鮮明な空白と、足あとの点と、体が動いた線と、場の面で振り返っている明日と、明日から振り返っている明後日と、昨日から振り返っている一昨日と、同心円の日付と、半円の三日月と、酒に混じって氷が溶けている太陽と、洋服に混じって素肌が溶けている体内と、微笑んでいるみたいな透明。


胸元から覗く目玉と、汗の味のする雨と、日光のような痛覚と、角度みたいな直線と、色みたいな赤と、名前みたいな女と、歩幅の行間と、意外性みたいな規則性と、足の踏み場もない靴のなかと、幻みたいな幻と、鼓膜みたいな部屋と、残響音みたいな原音と、不眠症患者がいつかなくしたままの足音。


浮島の都市から排熱された地表の夏と、背負い鞄の紐と取り替えられた靴紐と、貯水槽の上であぐらをかいている背負い鞄と、背負い鞄に寄り添っている蒸留水の容器と、容器の刻印と、物流から零れて循環している過剰や欠乏と、残響としての聴覚と、熱気や湿度としての現在と、現在としてのこれまで。

July 9, 2010

20100709

眠りと目覚めの区別のつかない状況でこちらをうかがっている夢かうつつ。



起き抜けの灰色にすすけた寝台脇の水差しと、水の形に調えられた透明さと、遠い声みたいな足下の足音と、歩幅をくぐって全身を絡め取る様々な色の布や刺繍糸と、透明さに調えられた重力の外装と、眠りながらもいつまでも眠ることのできない眠りに調えられた眠気と、小さなあくびと、中くらいの息の根。


床面ににじんでいる天井の模様や看板の指示と、街をひとつにまとめて待ちをもうひとつにまとめている両手鞄と、通り過ぎて行くばかりで一向に止むことのない目的地の更新と、小さな空と、中くらいの瞳と、大きなまぶたと、ささやかな眠りと、ささやかな眠りと、ささやかな眠りと、目覚めみたいな眠り。


残響と原音の区別のつかない状況でちりちりと拍子を数えている金属音と、眠りと目覚めの区別のつかない状況でこちらをうかがっている夢かうつつと、形と中身の区別のつかない状況で様々な縮尺に迫っている衝突と、重さと軽さの区別のつかない状況で背もたれによりかかっている足音の寝言。

July 8, 2010

20100708

別々の街を同時に歩いている姿。



空気に降りた霜のような白い煙と、都市に落ち着いた石のたたずまいと、幾重にも閉じたり開いたりしている窓と、窓が作っている格子と、格子が形作っている格子と、向きを追いかける方角と、上空の街の上空と、睡眠や覚醒とは違った場所で続いている夢と、風で開閉する窓硝子に映る窓硝子。


不眠症患者と、生活音と、手のひらの内側の時間の流れと、期待みたいな残映と、記憶と関わりのない何かと、何かと関わりのない記憶と、憂鬱みたいな希望と、倦怠みたいな喜びと、記憶とはこれからもこれまでも一切関わりを持たない光景と、空中で静止した雨粒みたいな電球か電球のない光り。


中空に寄り添った中空の姿勢を真似て空中で折り重なっている眼差しと、無音に寄り添った無音の静けさを真似て黙ってよそを向いている唇と、中空を遮っている建物と、無音を遮っている音楽と、思いを遮っている言葉と、この場を遮っている記憶と、記憶と女と、別々の街を同時に歩いている姿。

July 7, 2010

20100707

光景と呼ぶには何かが行き過ぎた視覚。
視覚と呼ぶには何かが足りない景色。



誰かと、誰かが知っている誰かと、誰かを知っている誰かと、分岐を完全にやり過ごす誰かと、あるとなしを完全に逆にとらえている誰かと、あるかもしれないとないかもしれないに関しては何故か不確かな誰かと、誰かというほどのこともない誰かと、いつも別の誰かの視覚のなかで歳を取り続けている誰か。


溶岩みたいな舌と、絹みたいな肌と、埃にまみれた瞬間の表面と、光景としては完璧な視覚と、視覚が内包する物語と、物語がその外側に内包する視覚と、反転と、溶岩みたいな肌と、絹みたいな舌と、瞬間にまみれた埃の表面と、光景と呼ぶには何かが行き過ぎた視覚と、視覚と呼ぶには何かが足りない景色。


気配ではなく主に寒気を感じ取る毛穴と、視覚化された五感と、もしくは五感化された視覚と、皮膚と視界と感情と記憶の地図と雨と、濡れている炎と、夜と呼ぶにはもう遅すぎる朝早くの暗がりの様々な音量と、視覚化された音量と、視覚の音量と、音量の角度と、音量の硬さと、音量の切れ味。

July 6, 2010

20100706

思い出話みたいな日々。



靴紐の午後と、町なかの貝がらと、昔はここも海だったんだよねと百万年ぶりに思い出して呟いている声の裏声と、もう吠えてしまいそうだとすでに吠えている録音と、歩行に向けた助走と、しっかりと足に根を張っている地面と、音速の言葉と、秒速だったりする時間と、光速の思い出話。


いつも音で聴いている目の前の風景の肌で感じている部分を確かめている匂いと、指先で紡いだ炎に濡れている汗と、風圧と話している女と、今では口も聞かない音量と、今でも耳にしない沈黙と、裏拍で表を取り続ける鼓動と、粉々になって絡まり合っている日々の反復然とした反復。


思い出話みたいな日々と、思い出話の思い出話と、思い出の思い出話と、誰かがある夜にひとりで思いついた思い出話という思い出話と、きっと誰もがするであろう思い出話と、きっと誰もがしているであろう思い出話と、まだ誰もしていない思い出話と、きっと誰もしないであろう思い出話。

July 5, 2010

20100705

密約ではないかも知れない何か。



不眠症患者の昼と、制御された区画の硬質に散逸した正面と、その散逸がより集まって一つの集中力を念じている図と地と、規則と例外とそれ以外と、軽さと、速度ではないなにかと、遅さでもない何かと、記憶ではない何かと、密約ではないかも知れない何かと、別にそれ以外のものでもない何か。


対象に対して常に副詞的である言語と、常に副詞的な対象と、動詞を追い続ける頭のなかで入れ替わり立ち替わる名詞と、副詞的である肉体と、助詞的である認知と、通訳をしている記憶と、記憶の通訳をしている誰かと、その誰かではない誰かと、誰がその誰か知らないその誰。


木の葉の落ちる螺旋を真似て音が鳴り止んだ午後と、午後の舞い落ちる螺旋を真似て太陽が鳴り止んだ南中と、そこから半日に向け伸びた影と、その影のなかの午後の熱と日差しと、午後を回収している午後のひとときと、動詞として四重に遮られた物や動きと言葉と、景色と背中合わせになった時間の速さ。

July 4, 2010

20100704

空の浮島。



足音が座り込む階段と、建物のなかに組織している階段のまるで植物のような構造と、昼下がりの都市の空の浮島から下がる鎖のような区画と、肩から下がる荷物鞄と、荷物鞄からぶら下がる革紐と、瞬きと打ち水と、睫毛と臨場感と、記憶が残響している夏の日と、残響としてある夏と、夏の聴力。


遠い日がそこにある手紙の封と、臨時の開場を告げた無人駅と、仮定法みたいな現実に寄せては返す仮定法と、現実みたいな仮定法に寄せては返す現実と、息の根から育つ木の根と、幹の羽根と、花と、午前の涼しさから暑さと、待合室の使用期限についての放送と、その後に残る言い訳みたいな夏の沈黙。


当たり前のような日々と、足あとにお構いなしの足音と、自分の足音の残響に合わせて歩幅で刻む足音と、もしくは誰かの足音に合わせて歩いている無人の足音と、目を閉じた音響のなか片方だけの足の裏で通り過ぎていく沢山の足音と、そのなかで二つの足の裏を踏みしめて歩いている足音。

July 3, 2010

20100703

面影みたいな植物と、影みたいな動物。



階段に積み上げられた雑誌みたく積み上げられた記憶と、不眠症患者の眠りのような一日と、賭の内訳と、わけの内訳と、電球の焼ける光りと、くぐもって聞こえない音や言葉と、今やくたびれてなおも勢いを増す静寂と、花火みたいに遠い面影と、面影みたいな植物と、影みたいな動物。


または日陰みたいな服と、または服みたいな日陰と、または日差しのような後ろ姿と、または後ろ姿のような日差しと、または残響の成分から原音を抽出するような日々と、または正解のために問いを作っているような日々と、または経験を経験しているような日々と、または忘却を忘れている日々。


いつも音楽のなかに見つける女と、いつも女のなかに見つける音楽と、いつも言葉にしてしまうことと、いつも言葉の奥に聞き逃す奥と、いつも話されていることと、いつも聞いていることと、いつも言っていることと、いつも言われていることと、いつも覚えているといつも忘れてること。

July 2, 2010

20100702

いわれのない二人。



いわれのない別れと、いわれのない出会いと、いわれのない混乱と、いわれのない擦れ違いと、いわれのない事実と、いわれのない足跡と、いわれのない獣道と、いわれのない口癖と、いわれのない二人と、いわれのない落ち着きと、いわれのない骨格と、いわれのない服と、いわれのない着こなし。


うろ覚えの呼吸で今日も始まりから終わりまで眠りを寝過ごした部屋と、点線が描く直線や曲線や波形と、点の中に点となって散らばった線と、線となって散らばった形と、形となって散らばった解釈と、解釈となって散らばった明晰さと、直線や曲線が描く点線と、端子と電線と、信号の制御と数十年の歳月。


まぶたみたいに閉じられた手紙を開く手付きで目を覚ました朝と、家具の木目や肌目に溶けた風景と、扉と同じ機構の鍵と、もしくは鍵のように働く扉と、扉のように働く部屋と、いわれのない記憶と、いわれのない忘却と、いわれのない二人と、いわれのない一人と、いわれのない祭り。

July 1, 2010

20100701

曲線にぶら下がる重力。



点の静止を追いかける線の流れと、線の黒を追いかける面の白と、崩壊を追いかける形と、崩壊と形とを真似した表情で美しく微笑んでいる口元と、口元から目尻に流れる笑顔と、笑顔から寝顔へとたどる無表情と、無表情から記憶へと流れる、呟きと叫びのあいだであくびを噛み殺した不眠症患者。


行く宛みたいな眠りの先の行き場のない目覚めと、室内の沈黙と、昨日の音と、一杯の真水と、確率では割り切れぬ言葉借りて繰り返す繰り返す眠っている不眠症患者の眠りだけの目覚めと、直射日光の寒気と、日光が爆ぜる皮膚と、震えと、素足と、突っかけと、往復の片道切符と、曲線にぶら下がる重力。


町を旋回しているみたいな川沿いの短い通りと、町を旋回しているみたいな雲と、町を旋回しているみたいな車輪と、町を旋回しているみたいな舗道と、町を旋回しているみたいな時計と、町を旋回しているみたいな一日と、町を旋回しているみたいな暦と、町を旋回しているみたいな髪と髪留め。

June 30, 2010

20100630

入場するとそこに立っている逆光の姿。



手元で眼球をもてあそんでいるみたいな広場と、斜めから切り込む柵と、椅子の青と赤と、色の緑と、白の綿花と、空気の色の全てと、いま覚えている全てと、まだ覚えていないことの全てと、この先忘れていくことの全てと、投函していない手紙が届くのを待つ人と、投函されていない手紙が届くのを待つ人。


手紙みたいな眼球が選んだお気に入りの窓際と、その外でたっぷりと空まで水に浸かった景色と、酸素を意識した呼吸と、呼吸を意識した胸元と、胸元を意識した夏服と、夏服を意識した初夏と、初夏を意識した夏日と、夏日を意識した低温と、低温を意識した低音と、低音を意識した歳月と、歳月と数行。


入場するとそこに立っている逆光の姿と、そいつが写り込む雑誌の見開きと、その見開きが閉じられた膝を包む繊維と、それぞれの波頭で過ごす昼夜と、昼夜で過ごす床の上の徒労と、床に座り込んで机の上をまさぐっている不眠症患者と、眠りが眠っている不眠症患者の眠りと、誰かの別の人の目覚め。

June 29, 2010

20100629

さざめきを見ている心でさざめいているさざめき。



珈琲と眠気と夢とうつつと、景色の内側から見たまた別の景色と、時間の内側で流れているまた別の時間と、誰かの冒険の内側のまた別の誰かの冒険と、中心への絞りを意識しながらも周縁のさざめきを描き出す体験と言葉と回想と生存と、中心への渦を描きながら回想の周縁でさざめいている生存。


生存の縁で消失を追いかけている視覚と、視覚をせきとめている比喩や執着と、別の弾道を計算している弾道と、別の弾丸を計算している弾丸と、別の指先を計算している指先と、携帯電話で話している男と、奥の机で地図を睨んでいる若者の一団と、背景音楽と、朝食と、台拭きと、流れているただの時間。


さざめきを見ている心でさざめいているさざめきと、感情みたいな水滴と、水滴みたいな血液と、薄い空と、分厚い空気と、朝みたいな夜と、朝が更けていく一日と、一日がずっと更けているみたいな夜と、色を口に含んでただ飲み干した珈琲と、珈琲の中で鳴っている音と、椀のなかの夜空の艶と正午の傾き。

June 28, 2010

20100628

平坦な絶頂。



字幕のような何かと、なにかと思い出しがちな何かと、なにかととは何かと、視覚の縁に添えて並べた光りの懐かしさなんかと、確認みたいな認識のしかたと、そこに割り込む比喩と、その比喩同士が絡まって駆動させられた新たな論理と、論理の言語ですら相手にしたくないという強がりのような目眩。


通りで清掃車が働いている音と、市営の乗り合いと、通勤の車の音と、建物のどこかでさえずり続けている鳥の声と、月曜の朝と、光景からの眺めと、手近の朝と、手近の光景と、遠くにある自分ではない光景と、すぐそばの自分ではない光景と、朝のある粘り気の高い空気と、空気のある粘り気の高い朝。


平坦な絶頂として繰り返している目眩の単調さと、苛立ちと、光景としての完成と、結果と仮定と、息を殺してるみたいな呼吸と、目をつむってるみたいな光景と、もしくは目を開いているみたいな光景と、午前遅くから正午へと向かう急な下り坂と、そこに滑り込む電車やら車やら自転車やら街並みやら窓。

June 27, 2010

20100627

秒針の両側で切り取られた半日。



線と色と空気の傾きと白黒の陰影と、街の夜と、週末と自転車と、暴動のあとみたいな路上と、空き瓶と紙切れと、一列になって通りを穏やかに鎮圧している警官と、単色の景色とそこに重なる様々な色の光りと、ある時刻が持つ特有の輝きと陰りと、ある時刻の深くて薄っぺらい無人の静けさと、後ろの正面。


工場の低音と、社会的な風景と、石に沈められたまま服となって踊っている繊維と、意匠と、印刷と、醸造酒と、階段と、階段を切り抜いている空間と、空間の外壁と、躯体と、外装と、夜風と、星々の足下と、都市の埃と、体内の涙と、靴の中の足下と、床と、床の地平線と、内装と、屋号と、震動する建物。


耳の両側で切り取られた音と、音の両側で切り取られた音と、耳と音の両側で切り取られた曲と、曲の両側で切り取られた過去と未来と、過去と未来の両側で切り取られた一連の合図と、合図の両側で切り取られた瞬きと、瞬きの両側で切り取られた秒針と、秒針の両側で切り取られた半日と、半日の両側。

June 26, 2010

20100626

祝日みたいに入り組んでいる平日の縁。



足首あたりに来るあたりの時間あたりの勾配あたりと、電車の扉の開閉と、石の壁の気配と、石の空の気配と、水性の雲と、空気圧の海と、碧い空と、碧い春と、実際の空を占めてもいない想像の空と、体の表面を追いかけている慣性と、絶対に閉じない完全な円と、時間をかけて流れている時間。


視覚の書き順と、独楽のように振れる左右と、うなずくような拍子と、肩幅と、厚みの欠如として捉えるべき奥行きと、手前でうろちょろしてる瞬きや腕や人体までの距離と、内部というものの遠さと、あっという間の長さと、夕べから深夜の時間と、関節の角度と、関節の間隔と、振り子と、握り拳と、改行。


祝日みたいに入り組んでいる平日の縁と、大文字の平日と綴る小文字と、書き手がそこにいないということにより書かれた文章と、平日みたいな週末の夜気の華々しい部分と、禍々しい記述と、忘れがたい忘却と、現在の息づかいと、どちらかが絶えず遮られている夜風と時間と、呼吸と鼓動が遮りあう内部。

June 25, 2010

20100625

ずっと落ちてない日々。



音にくぐもった昼の光りが実は沈黙のなかでずっと黙っている口の中と、ある音や言葉に対しては抵抗が少ない空気の質と、音や言葉の受ける空気の抵抗を空気の記憶に代わって聞き分けている鼓膜やらと、視覚や聴覚と交換可能な感情や思考と、はめ殺しの窓と、そのまどから実際に覗くこれらの文字列。


睫毛の空白と、空白のつけ睫毛と、空白の体と、空白にも届かなかった体と、空白で満員の体と、偶数回否定と、場面に固定された印象たちと、印象に固定された詩情と、場面の要素の順列組み合わせと、ずっと低温が塗り響いている体内と、回想の階層の上昇と、ずっと落ちてない日々。


自分である他者の可能性と、他者である自分の可能性と、可能性である自分の可能性と、肉体をどこかでひんづかんでいる自明な不透明さと、自明な透明さと、自明的に非自明的であることを余儀なくされた非自明性と、透明である事と、自明である事と、不透明である事と、線を持つ事と、逆回しの消失。

June 24, 2010

20100624

夕方みたいな昼に風を結っている枝葉。



黒目に透けた白い直方体の空間と、窓枠により幾通りにも刻まれた硝子に透けた屋外の街並みと、壁と樹木と、口のなかにずっと響いている唾の味と、夕方みたいな昼に風を結っている枝葉が緑にほころびては小さな背後の黄緑を振り返って見る木の下の長椅子と、肘や膝などで折り畳まれた蛋白質。


比喩と翻訳と、実況と回想と、実況の回想と、予言と予定と、前口上と後日談と、注釈と但し書きと、実行と黙考と、地図と現地と、設計図と現物と、目録と作品と、人物と人体と、風速と風と、時速と時と、謝辞と弁明と、実存と演技と、役柄と役者と、演奏と記譜と、複製と批評とを同時にこなす一文。


死者の役割を同時にこなす生者と、生者のなかでのみ生きる死者と、死者のための小さな鏡を洗面台の脇に置いている女と、死者のための小さな本を小脇に抱えて生きる男と、小さな鏡と小さな本と、小さな街と小さな部屋と、輪切りの温かさと、体温の倦怠と、打算と、無呼吸と、目眩と、日々。

June 23, 2010

20100623

ごめん聞いてなかったよ。



自転車で測った縮尺と、縮尺の歩幅で通り過ぎた微かな停留所と、停留所に書かれた名前でまとめらた日付と、宛先不明の記憶と、持ち主不明の忘却と、不在通知と、反復の季節と、日々の用途が鍛える習慣の反応と、反応の内側から外の手応えを探る盲の触覚と、触覚の用途の向こう側で通りを隔てる人影。


ごめん聞いてなかったよと椅子に座って静かな笑いに揺られてる灯籠の火影と、音楽に反応して歩調をばらつかせている短針と長身と秒針と、帯域によってそれぞれ別々の遮られ方でどもっている旋律と、全体の振幅を目を細めて見ている粉々になった全体の形の様々な角度からの見え方と、晩の時計の怠惰。


秒針を翻訳している時計の作動音と、電池切れの時計の壁と、かつてそこにあった人の形と、語調だけで話しかけてくる声と、語尾だけで話しかけてくる声と、角度を噛みしめている銃身と、点線を結んで直線にした時の濃淡が風となり夏至を祝う夕べと、暗器と、木霊だけを射貫く矢尻。

June 22, 2010

20100622

足音の旅。無人の体内。



足音の旅と、無人の体内と、自由と、不自由と、戦場と、真昼の夜営と、常に半日分だけ膨らみ過ぎた半月の光を頼りに自分の背中を見守っている記憶の番人と、景色に対して透明な視界と、視界に対して透明な視覚と、視覚に対して透明な選択と、選択に対して透明な可能性と、可能性にとって不透明な前提。


気絶している透明の番人と、透明の番人の透明ではない服装と、透明の番人の着替えと、透明の番人に対して透明な一人と、不透明な透明の番人と、趣味としての透明の番人と、透明の番人人形と、からかわれている透明の番人と、透明の番人気取りと、透明の番人の実りと、利己的な透明な番人と、番人の秋。


夜と草木と空気と停留所と、通りや酒場の賑やかさと明るさと、装飾の輝きと照明と、移植された椰子と、砂と、一帯のたれそかれと、舞っている砂と共に舞っている足音と、無人の体内と、体の内側の視覚の外側で生きている部分と、結果という過程と、選択の予知と、体内で育った金属と、装甲と、間食。

June 21, 2010

20100621

自分の旅人。



乗り合いの停留所の待ち時間と交通の要と、流れにふと湧いた空席と、旅を重ねる空席の行く先と、内燃機関に揺さぶられながら今はあぐらをかいている空席と、空席の髪の毛と、空席の横顔と、空席の睫毛と、髪の毛の空席と、横顔の空席と、睫毛の空席と、空席には誰がやってくるんだろうという歌声。


可能性を乗り過ごした選択と、選択を乗り過ごした可能性と、見過ごした憂鬱と、掛け違えた足跡で首まで引き上げた上着の襟元と、襟首からこぼれた夕涼の群青と、乗り合いの停留所の日陰と、旅日記の紙飛行機と、現在地の予定地へと一足飛びで駆けていく思い出と、夏のすぐそばの名前のない季節。


夜に交わる混乱と、潮騒のすぐそばの星空と、裸足の髪の毛と、上腕と、空電が夜に響かせる周波数で翻訳された鏡と、鏡に映り込んだ空席と、その空席の鏡像に別の角度から重なる肢体が組んでいる足と、遠近法の中で空と交差する辻と、その空席の隣の空席にふと重なる角度から夜を数えている自分の旅人

June 20, 2010

20100620

化粧の練習をする少女。



城内の壁に切り取られた空の端から中空と足元とを繋ぐ断面の青と、化粧の練習をする少女と、粗い金網の背後の空き缶と、狭い路地の高い空と、段差と傾斜と石の細かさと、ずっと上空の深夜に向けて折り重なった雲の影の空の折り目と、白い半月の片寄った丸さと、視覚の曲がり角で空と交差している路地。


空気の密度で耳を揺さぶっている建築の高ぶりと、吸気にもつれている壁の北の破片に消し飛びながら残骸が含み笑いをしている南向きの階段と市場と植物相の色の初夏と、橙色の葉がなびいている風速の裾から少し汗ばんだ指の形を真似て露店を幌を騒がす波紋の光と、旧市街の床石に寝転んで遊ぶ子供たち。


解像度の違いを同じ画素数の中で骨継ぎした城壁と回廊と運動靴と年号と空中の流砂と、ひとつの砂粒が保つ堅固な図形が吹き上げられた城内の西日と、揚げ物屋と土産物屋と、小冊子と釣り銭と、電話番号と中心街と、完全な半月よりはあと半日のあいだ膨らんだ月と、土地の神と、人間たちの宴。

June 19, 2010

20100619

夜空に黒く濡れた星と、光と、星に濡れた黒い夜空。



滴の朝と、砂に絡まった透明な鎖と、半分に割れた円形に切り出された石と、砂浜が好きではない運動靴と、反芻された記憶と、欲望の構造と、砂浜と、構造の欲望と、記憶された反芻と、運動靴が好きではない砂浜と、石に切り出された半分に割れた円形と、鎖に絡まった透明な砂と、朝の滴。


目のなかの映画と、言葉のなかの台詞と、中央に張り巡らされた関係性の網と、空路の相関図と、実際の地図に浮かび上がる架空の国々と、架空の言語と、言語の架空と、架空の国々に浮かび上がる実際の地図と、相関図の空路と、網の関係性に張り巡らされた中央と、台詞のなかの言葉と、映画のなかの目。


冷たい夜の一杯と、防空壕にせり出した酒場の軒と、砂に手で描いた瓶の柄と、靴の底で踏み締めている柔らかな地面の感触と、夜空に黒く濡れた星と、光と、星に濡れた黒い夜空と、地面の柔らかな感触で踏み締めている靴の底と、瓶の柄で手に描いた砂と、酒場の軒のせり出した防空壕と、一杯の冷たい夜。

June 18, 2010

20100618

大陸みたいな肩。挑発的な視線。



呼吸の血流と明るさの静けさと、大陸みたいな肩と偏西風の項の髪留めと、冷笑しながらも無関心ではない横顔と、片腕をついたその肩から覗く光景と、そこにある遠い夏と、背中と、夜会服の皺と、手の甲と、食卓と、財布と、食器と、前菜と、葡萄酒と、塩と胡椒と蝋燭と、挑発的な視線と、誰かの笑い声。


爪先の記憶に遠回りをしている後ろの正面と、後ろの正面で背中合わせの肺と青春と、風景の平坦な音圧と、自分を聞き分けている目と、横顔と、また別の晩餐と、その時に話し合ったまた別の晩餐の思い出のなかの晩餐に来られなかった誰かがいまようやく入り口まで来た新しい晩餐と、ごった返す人々。


手の甲からほぼ垂直に突っ立つ腕に身を乗り出した肩と、そこにある遠い夏と、そこにある夏の春と、そこにある夜と、そこにある夜明けと、そこにある一日と、一日のある一日と、平穏な景色の音圧と、だだっぴろい広間と、食卓と、椅子の背もたれの上着と、誰かの忘れた腕時計と、持ち主のない時刻。

June 17, 2010

20100617

寝台の情報量。幾重にもなった夜の理由。



当たり前の季節と、季節の当たり前と、当たり前の砂浜と、砂浜の当たり前と、砂のような足跡と、匂いのような飲み物と、感触の光と、音場の奥と、中心を配置していくことと、足先で触れた配置の中心から波で広がる上下と、動きの露と、血管の雨と、地響きの無関心と、平凡で過剰な夜空と、街の酒場。


血管の内側で雨を降っている血液と、夜空に耳を澄ましている口笛と、表情の内側で戸惑いを踏みしめている小鼻と、笑顔の外側で状況を笑っている体と、雨の毛穴と石造りの皮膚と、複製された興奮と、無機質な肉と、機械の目眩と、優しい目覚めと、軽々しい手足と、寝台の情報量と、描線の裏側の光源。


輪郭の微笑と、色の喜びと、囁き声を量っている言葉と、壁の内側にまずは描かれた壁の絵と、壁を隔てている床と天井と、扉を隔てている内側と外側と、体により隔てられた映像と、境界線を突っ走っている汗と、汗を突っ走っている夜の粒子と、幾重にもなった夜の理由を探している夕方の雨だれとうなじ。

June 16, 2010

20100616

比喩と戦っている心。



飛行機の音の着陸と、遠景の近景と、音で見た景色と、目で聴いた音楽と、文字列に浮かぶ顔立ちと、顔立ちから浮かぶ文字列と、輪郭線みたいな姿と、比喩と戦っている心と、生命を含んで重く濡れた死と、生体と、生命を含んで濡れて干からびた詩と、声帯と、声が音もなく着陸する机の上。


平面上もしくは箱の中の細工と、陰影の配置と、道端みたいな空と、日陰みたいな陽だまりと、視覚の空洞と、理性の共有と、水たまりみたいな空と、円形みたいな直線と、直線みたいな夕暮れと、夜の天井と、西の革と、東の鉄と、方角の菱形と、南の出口と、北の鉄道網と、箱庭の空と、洗面台の湖。


時代という戦争と、変化みたいな足音と、真昼の星から目が離せない子供と、静けさに対して踊り続ける女と、歌を研ぎ澄ましている声と、声を研ぎ澄ましている歌と、機械に凍えている負荷と、電信柱みたいな憂鬱と、蓄音機みたいな冷蔵庫と、足音みたいな鼓動と、道のりみたいな一瞥と唾を飲み込む鳴き声。

June 15, 2010

20100615

動線を結んで開いて編んでほどいた洗面所。



一日を目蓋で閉じた五時間の睡眠と、睡眠を通わせている姿勢の安定した電圧と、電圧で口ずさんでいる真夜中の音質と、音質と言う音と、土地の空気によってひどく偏って響く鳥のさえずりと室内の物音と、物音で考え事をしている家具と、家具で考え事をしている人間の動線。


動線を結んで開いて編んでほどいた洗面所と、洗面所の風呂場と便器と、折り畳まれた布や壁の色と鏡の模様と、影の仕草の影と、一日にも似た六月の半ばと、六月の半ばにも似た季節と、季節にも似た七月と、夏の春夏と、予定表と、年表と、前世紀と、個人的な伝説と、古い映画館と、古くもない映画。


空気に寄りかかる体を机で支える両腕と椅子と、風に寄りかかる空気と、気圧に寄りかかる風と、大陸と大洋に寄りかかる気圧と、薄いぺらぺらの形象と、分厚い日光と、重たい埃と、飛行機の音と、音の飛行機と、紙飛行機を真似して作られた飛行機と、生涯を真似して過ごしたみたいな一日。

June 14, 2010

20100614

花束のような骨とか血管。



まるで花束のような夜だねっとまるで花束の代わりにそう言っているような声と、時間と夜と夏の涼しさと、くるぶしから発生して膝と腰から背中から首までを支えている緊張と、緊張を鼻歌で暗譜している帽子と、帽子のつばを挟んだ指と、指が撫ぜている帽子の刺繡と、花束のような骨とか血管。


道を暗誦しながら拍子がずれて奇妙なうねりに巻かれている散歩と、心臓のうねりと、鎖骨の曲がり角と、頸骨で水切りと、耳を暗誦している鼓膜と、呼吸を認証している横隔膜と、無防備な角膜と、景色に慣れては感情を呼び込む自堕落と、新鮮さに対して眠気で挑む奈落と、ところ構わない新鮮な誤爆。


これはまるで夜だねと昼の日射しのなかで言っている半袖と、それはまるで本当の事みたいだねと言っている肘の裏と、光だねと言っている影と、風だねと言っている壁と、形だねと言っている中身と、そうだねとうなずいている外見と、始まりだねと言っている終わりと、終わりだねと言っている始まり。

June 13, 2010

20100613

目と景色の恋の行方。



睫毛で計っている目の表面の温度と、目の前と睫毛が擦れ違う景色と、睫毛で測っている目の前までの距離と、日々の祭りばやしと、街灯と影絵と、中音域の空気と、高音域の神経と筋肉と骨と人体の形にばらばらになった運動同士を結んで描く円弧と、あちこちで円弧に巻き込まれている衣服の踊り。


衣服と衣の夜の茎と、かじかんだままずっと温かい手のひらを鳴らす音と、侵入のための手順と、潜伏のための用意と、祭りばやしの遠くと、夏にかじかんだ手のひらと、気がつけばいつかの手のひらの亡霊が髭剃りや鉛筆を持っている利き腕と、袖から突き出て衣服の踊りの外側で身のこなしの軽い五本足。


睫毛と手のひらの亡霊の恋の行方と、目の上で焼けている景色と、景色に灼けて糞って言っている目と、目と景色の恋の行方と、睫毛が覚えている目の前までの距離と、睫毛が届く距離と、睫毛が冷めない距離で開いている目と、花束のような夜だねっとまるで花束の代わりにそう言っている声と、睫毛の花束。

June 12, 2010

20100612

いつも常に記憶にしか残らない最高の奴と、
いつも常に記憶には残らない最高の奴。



手の平と鉄壁の雰囲気と紙一重の目蓋と、視線の縮尺や移動している地図の一部分の任意の次元での断面と、地図を通して発生していることの全てと、地図を通して発生すべき街区と、地図を通して夜と昼に渡り発生している街区の詳細と、地図の表面で細心の注意を知らずに払われ明らかに発生している細部。


中心以外は存在しない円と、中心の存在しない円と、かたちのない女だとか影しか存在しない友達や、匂いだけする奴と、見た目が三次元空間にそっくりな奴と、残響しか響かない奴と、いつも常に記憶にしか残らない最高の奴と、いつも常に記憶には残らない最高の奴と、人格化と、展開と、ていねいな物腰。


与えられた仕事をそつなくこなす透明の番人と、曇りの気温と人体と空と、無人体と空と、壁に立てかけた自転車と、合成板で組み立てられた簡素な机と、寝椅子と電話と鍵と、奥行きを引き受けている座っている時の視点と、視点で奥行きと鉢合わせた過去に向けての行き止まりと、地図を読む架空の言語。

June 11, 2010

20100611

恥も外聞もない煉瓦。角部屋のどれかの角。



汗と穏やかさの目と、目の穏やかさと、穏やかな日と、日の穏やかさと、空間の測量と、道端のがらんどうと、石や空の色と重さと、乾燥と、生活音と、雑音と、音と、無音と、空気の質感と、目の前で過ぎることのなかった季節と、後先の前後と、後先の全部と、後にも先にもない後先と、先の後先の後。


五感を調整している大部屋と、窓の淵と、十分な日光の水面と、体の重さと被さっている影と、影に被さっている軽さと、軽さに被さっている予感の未知の部分と、人生のなかで何かを予定している時間が占める割合と、予感すらしていなかった出来事と、今も続く予感と、整合性と、前後関係と、成り行き。


気配の夏と、動物の匂いと、積まれた本と、掃除機と、大まかな水平と直角と、色のついた空白と、壁の紐に吊るされている洗濯物と、誰かの忘れ物と、共同の冷蔵庫と、油性筆と、しばらく溜まっている廃棄物と、誰かの用事と、恥も外聞もない煉瓦と、静かな内階段と、空間の呼吸と、角部屋のどれかの角。

June 10, 2010

20100610

不穏さではない期待。



目の中の距離と距離の目と、人工の距離と野生の距離と、色や鳴き声や全長の違いと、人工の速度と未確認の速度と、面積分で合致しつつ三次元的には細分化している内容と、距離の中身と、距離の生身と、距離の死体と、距離のぬけがらと、距離の廃墟に住まう人々と、距離の余白と、距離の拡大解釈。

点線のような日々と、確認の応酬と、水漏れと、水の密度と蒸気と、蒸気の雲と、蒸発した蒸気と、蒸気の点線の拡がりの中で形を仕留めては溶けて消える距離の形成と、距離の未到距離と、距離に横たわっている点線のような日々と、水道管と、火の元と、喉元と、点線のような沈黙と、冷気と、蒸気の汗。

待機と、任務と、空いた飲み物の容器と、明けた夜からの陽気と、殺した息で生きる息の殺し屋と、土や塵となった紙切れやいつの間にか粉砕されていた色とりどりのかけらが身を寄せ合っている自転車置き場と、自転車と、季節の完全な胎内で常に寝過ごすことを運命づけられた不穏さではない期待。



街と平衡と、待ちと閉口と、逆から見た距離と、距離と向かい合うために必要な距離と、精算の手段を次々と提案しつづけるだけの距離と、さっきからひとことも話していない距離と、現在地の距離と、距離感ではない距離と、遠さではない距離と、操作ではある距離と、分身した距離と、反復する距離。


鳥肌を掴む窓からの外気と、乾燥の音響と、ずっと一歩後ろから瞬間に向けてしなり続けている永遠と、 外気と、とらえどころのない眠気と、とらえどころのない眠りと、油断も隙もとらえどころもない一日と、一日を空輸している太陽と、一日を密輸している反射光と、密輸されたままの一日。


風向きと一日と、仰角の水平線と、街と角度と、一致と臨場感と、言語の外側と、輪郭の見取り図と、洗濯物と小銭と、冷蔵庫と空瓶と、鞄の空きと、春の秋と、石鹸と水道と、紐と誰かの上着と、空間と、空間の内側に込められた驚きの空砲と、空砲の驚きと、冷えた飲み物と、扇風機と、誰かの小さな勝利。

June 9, 2010

20100609

千年の途中と、途中の千年。



綿花と気候と日中の気温と寒気と長袖と髪の毛と、笑いながら沈黙を守っている宣言文と叙述と放射熱と放心と方針と、数字のような文字列と、文字を並べ替えながら徐々に育っていく見えない書物と、弾丸をかいくぐりながらも飛び交う綿花に対しては無風な身のこなしと、千年を数え終えた一日。


一日を終えた千年の風貌と近寄り難くも恫喝的ではない語調と、石造りの歩幅と、人の形をした涙と、汗の形をした体と、口のなかの握力と、体重の密度と、服の着丈で測ってみた一日の長さと、千年の長さで測ってみた一日の午前中の太陽の光の色の静謐さの中に均された不穏さの希望と、居心地の悪い百年。


千年でようやく測り終えた一日の長さの時計の外で測りきれなかった残りの日々と、不穏さではなかった希望と、褪せて輝いてくすんだ神経質な発作の笑いで練っている迂闊な胸元に溶けるように沈み込む掌底と骨ばった甲に浮かび上がった腱と、心臓で測った千年と、千年の途中と、途中の千年。

June 8, 2010

20100608

曲率と円周の水面を軽い筆致で波紋を打って踊る鉛筆の炭素で浮かぶ素描と、素描の表情で昨日を微笑む明日を今日は忘れている利き腕の添えられた指と、鉛筆と並んで水面を打ちながら踊る指先と、瞳の上の水面を循環する散弾の論法の飛び石の軌跡が絡まりながらも決してもつれることのない鮮やかな描線。


水面の影と印象と、水面に映る表面に似た心に似た実像に届く触覚で交わる蜃気楼の媒体と、骨や脊髄の芯で結ばれる時間の構造と、水面がそこにあるからその表面に映る景色と、姿がそこにあるからその表面に映る景色と、心がそこにあるからその表面を内側で感じる気色と、無邪気で即物的で罪のない笑顔。


水面の微笑みの波紋を打って重さもなく踊る筆先と指先と、水面の摩擦で溶け合う炭素と皮脂と、点線が滲んで結ばれた直線が滲んで描かれた弧線と、弧線が滲んで現れた目鼻立ちと、目鼻立ちが滲んで愛しさに溶けていく瀬の騒と、瀬がそれ自身の縁に沿って描く地勢と、故郷を持たないという嘘の感傷の嘘。

June 7, 2010

20100607

地上みたいな夏。



花束の影絵で生きる模様の通り雨に潤う路面に硬い節々と、息の詰まる肩越しの風速の涼しさに描線の渦を結んでは頬の熱に溶ける夜景と、鮮やかな白黒と酸味のある酸素に照り返す透明の裏表と、広告に切り取られた場面の向こうで予告編がいまも続く長回しの日々と、お喋りに浮かんでは消える様々の名前。


名前と軌道上の夏と機械に触れている爪と画面と配列の魂と字体と、広告みたいな地表と目線と人通りと戦線と、無人であることを選んだ基地と電文を包帯がわりに夜の明けない目の中のかがり火と、見えない義肢と見えない対象の印象で見えている義象と触れ合う前線と、義象を義人化している体内での姿。


実際のものとは違うが実在している惑星の青に溶け込む街の騒然とした回路を足を引きずってだらしなく歩いている通り名と、抽象の頻度で改まる俯瞰図に拡大される細部と、自転車と躯体と、缶と耳たぶと、これまでどこかに連れて行き損ねた忘れ物で今溢れ返る部屋と、同じく誰かの忘れ物みたいな現在形。

June 6, 2010

20100606

人工物も自然現象であると捉える。



花束の影絵で生きる模様の通り雨に潤う路面に硬い節々と、息の詰まる肩越しの風速の涼しさに描線の渦を結んでは頬の熱に溶ける夜景と、鮮やかな白黒と酸味のある酸素に照り返す透明の裏表と、広告に切り取られた場面の向こうで予告編がいまも続く長回しの日々と、お喋りに浮かんでは消える様々の名前。


名前と軌道上の夏と機械に触れている爪と画面と配列の魂と字体と、広告みたいな地表と目線と人通りと戦線と、無人であることを選んだ基地と電文を包帯がわりに夜の明けない目の中のかがり火と、見えない義肢と見えない対象の印象で見えている義象と触れ合う前線と、義象を義人化している体内での姿。


実際のものとは違うが実在している惑星の青に溶け込む街の騒然とした回路を足を引きずってだらしなく歩いている通り名と、抽象の頻度で改まる俯瞰図に拡大される細部と、自転車と躯体と、缶と耳たぶと、これまでどこかに連れて行き損ねた忘れ物で今溢れ返る部屋と、同じく誰かの忘れ物みたいな現在形。

June 5, 2010

20100605

一日の視覚の揺れている真正面で捉えている真ん中のさなかの回りでそれぞれ弧を描く線を点の集まりとして見つめている目と、目のまわりに宿った体と、眼球を中心に開いている鼓膜と、鼓膜の夜の網膜の役割を果たしている窓際の湾曲した景色の水と、点のなかに開いては目を閉じて目蓋だけを開く沈黙。


瞬間の点で捉えた線と、線の角度に見出した立体と、立体の重なりに遷移する時間と、時間の遠近法のなかで視野を確認している実感を点に閉じて線を導いて面を開いては時間と流れている視覚と死角の狭間と、遠心力の空の縁で更に細かい回転を絞り込みながら拡散していく粒子状の地上の夜と、地上の空。


許す限りの視覚の許す限りの死角と、視覚に塗り込む死角と、死角を描く視覚の遠いものを遠いままに遠くで添いながら遠くを摘んでいる知覚と、単色につぶされた光点に浮かぶ線の角度を重ねて立体を捉まえては時間に流す落ち着いた静止の心構えと、視覚に忘れ去られた全身を包む死角を感じている肌。

June 4, 2010

20100604

ひとつまみれ。



午後と試みの朝と光と端末と、熱と音楽と生命力と、いつも頭の中で踊っている枯れず育たない若い永遠の芽っこと、水分に跳ねた波紋の中心に向けて揺らぐ平面の足踏みも刷り足もない肩での踊りと、感情線と生命線と中央線と、季節がその中央で居眠りをしている日溜まりの陰のあくびで喋る緩慢な日々。

早回しの空回りと絡まった手足が見えない波形の歩道と編集と、蕎麦の様な身体と麺つゆのような湿度と、結局は電線をほぐしている電気と被膜をついばんでいるくちばしの鋭角の唾液を暴力的に挟み込んだ羽毛と、羽毛の軽さで落ちているそれぞれの羽ばたきで空しいひとつまみの距離と、距離を真似る心。

距離に隠された秘密と話し込む足取りと、距離を真似ている心と、零の距離を真似ている心に映し出された体の各所で暴発している企みを持たない無言の裁断と、理由で受け流した意味の深くで目的を果たしている事にも気がつかない先取りの憂鬱のせいで自覚のない後悔と、午後の試みの朝に描いてみる夕べ。

June 3, 2010

20100603

さなかの花の色水と、波と空想と部屋と人の形と、言葉に伝わる動物と仕草と球体の回転と光の移動と、足下から髪の毛までの自由と、色で壊れた人通りの輪郭線にくくられた国道の地平線と、両腕で繋がった背筋の骨の数だけ積み上げられた神経の全身を湿らせる水脈と、芽吹いている土の様に露出した黒目。


黒目に咲く花と黒目に降る雨と、瞬きで手入れされた地表の肥沃な感受と無感情な恵みと、無感情な恵みにも潤った地下水面のさざめきの滴の形からほどけた視神経の唸りに震えた手前から更に手前に向けて伸びる奥行きと、その奥行きを手前で受け止める後頭部から目蓋が痺れて一切がはっきりする無断の音。


無断の音を見分けている景色の形をした黒目を目蓋で閉じているひとがたを着こなしている半そでと、半そでの強弱で格好をつけている肘の関節と、関節の形で整えられた重力の腱の柔らかで丈夫な組織と、重力を乗りこなす体重と、体重を乗りこなす視力と、視力を乗りこなす目のうちの二つ。

June 2, 2010

20100602

血まみれの体内で鳴っている音と、中身で響いている振動の空気と、沈黙の配置で場を制御する語り手を制御する思い出の一場面の舞台と楽屋と、炭酸水と折り畳み椅子と、記憶にとっては沈黙でしかないその一場面の限りのない反響のなかで震えが震えを呼んでいる震えと、今も人称代名詞を探す熱心な沈黙。


鏡と大陸と時間の技術と、肺と胃袋と人差し指と親指と、空腹と思考と、醸造と保存と、液体を凍らせて作った容器の中で凍り付きながら容器を溶かしている液体と、かつて容器の部分であった液体と、それを丸ごと冷凍庫に放り込むぞんざいな手つきの間借り人と、凍り付いた液体の容器の中で凍りつく液体。


沈黙の場面で記憶を演じる舞台で楽屋と共に凍り付いた残響と、凍り付いている残響が震えている体内をやがて凍結させる時間の技術と、必要に応じてそれを解凍している空間の作法を凍らせている残響を砕いた瞬間を凍らせた反復に凍り付いている原音と、凍り付いた容器の中で今も確実に温い血塗れの体内。

June 1, 2010

20100601

原色の白黒の面影のいつも寂しそうな表情の背骨で流れている一つの肉体の川と、時間よりも正確な頭の芯と、その中でさっきの先をずっと数えてる今のありかを目指していたさっきと、夜風とかさぶたと短い靴下と突っかけと、歩道を塗り分けている看板。


看板を肉付けしている欲望の根拠の乾いた舞台裏の白け切った空気と、街をせき止めている建物と、気圧と湿度と上着と、人間をせき止めている体と、体をせき止めている運動と、運動をせき止めている完全な静止と、静止を色付けしている緩慢な拍手と、拍手をせき止めている満員の会場と六月の空の弧。


六月の空の弧をなぞるつもりで腕を力いっぱい振り回して見た人影と、線に遮られることのない新しい輪郭にこめられた形と、寝そべって横向きに階段を見ているような街角と、全て幻聴のように響く人々の話し声や物音と、反射神経に対して辛うじて本人であると分かる見ないで描いた景色を見てる誰そ彼。



「アリスの国のワンダーランド」と入力する。「アリス」は固有名詞、「ワンダーランド」は一般名詞か固有名詞、「の国の」は助詞と一般名詞でここを「in」とすれば世界は元に戻る。アリスは女の子で想像通り想像上の姿をしてる。「不思議の国のワンダーランド」には彼女がいない。

May 31, 2010

20100531

古さの夕べにつまみ上げた褪せた茶色に華やいだ残照と、電機熱のうなりと自然の文明にたなびいている暗号に透けている鼓膜と髄液の振動と、印象にに整う液状化した論理の骨子と具体的な名称から溶け出した体験の装いと、装いの裸体の何げのない体験を描く弧が辿る横顔の輪郭線。


体験の横顔で整っている印象の弧を描いている夕べの昏さと、雑音に浮かび上がるないがないままのものを見ない視力に対して無力な純粋な執着と、ぼうっとしている装いの裸体を着こなしている焦点距離で測っている柔らかな形に対して盲目な色彩と、速度線を伴って現れる音響と廃墟のだいたい今ごろ。


廃墟を満たしている五感と、五感によって拾われなかった感受に引き立つ全身の縁の原因と結果が単一であるひとがたの球体の美しい女の横顔の弧を描く輪郭線の推力と、秒針の回転と、惑星の曲率と抱き合っている軌道と、本来ならばそこにない筈がない気がしない沈黙で俯いている印象の死角。

May 30, 2010

20100530

梅雨寒の鉱山の五月の錆びた線路沿いの遠景と、命の形をした鏡の心と皮膚の最前列と、工具の手入れをしている同僚の映像のない笑い声に揺れる淡色の影と傾いだ床板と、いつも昨日というものがない一日と、もしくはいつも一日というものがなかった昨日。


いつも一日というものがなかった昨日と、今日というものしかない明日と笑い声の影と同僚の工具の切れ味に結晶した刃と、表面の液体の肌理で握り締めている熱を定義しない汗と、発色の異なる反応に刻んだ瞬きと、傾いだ床板と遠い拍手と単色の迷彩と、指先や手首や関節で考えている縮尺と間合い。


まぶたの形で流れ込んでくる足取りと幹線道路と鉄道の駅と鉱山の梅雨寒と、肉体の果ての風通しに絶えず目の裏から膨らんでいる自由と紙一重の完全に単色の街並で電話をかけている笑い声の影絵と、自分の無表情な背中を裏側で抱いている肩から腕への流線と指先を支えている背中。

May 28, 2010

20100528

手の平の夏の滴の形をした落下と、内側に向けて零れている集中力と、舌先で既に温かい木霊の前触れを転がしている相づちと、純粋な執着と詠みかえられた目の前の景色と、微笑むほどに苦味が良い甘さ。


点線のような汗と、斜線のようなまばたきと、下線のような靴底と、視線のような運動と、環状線のような天気と、太陽光線のような木蔭。


実際の日付の予定に寄り添った思い思いの巧みな放心と、それぞれまんべんなく形の内側と外側で擦れている眼差しと、いびつな球体の姿勢で人体を感じている循環系と、筋肉のしなやかさで走っている文字と、意味の持久走と、瞬発力の描写と、文法の弾力と、印象に肉薄した脱出速度と、実感の重力。

May 27, 2010

20100527

上着の雨の車輪に触れる回転と、道端で濡れている髪の毛が風速を展開している地形図と、道路脇の店先の軒下の五月の奥行きで加減を調整している光りの変化。


握り締められた小銭みたいな気持ちで弾を込めている日付変更線と、足音を追いかけている階段と、踊り場で踊っている振り向きざまの踊りと、単調さの反復に彫り込まれていく上昇と落下の伸びしろ。


左右に振られては位相を検討している音場と、可聴域の静寂と、可聴域外の静寂と、一部屋の笑っている映像の記憶だけに合わせて無言で唇を動かしている酸素と、びしょ濡れの体内と快適な室内と、線描と点描を同時に行っている雨。

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